宮城県図書館だより「ことばのうみ」第61号 2018年10月発行 テキスト版

おもな記事。

  1. 巻頭エッセイ・特集 
  2. 〈特集〉本との新たな出会いを楽しむ
  3. 図書館 around the みやぎ
  4. 図書館員から読書のすすめ
  5. 図書館からのお知らせ 

   

巻頭エッセイ『この世界はなんだろう』漫画家 いがらし みきお。

 小さい頃は、本や図書室とは無縁でしたが、実家が理容室だったので、漫画雑誌には囲まれていました。家にはまだテレビもなかった時代なので、漫画家になりたがる環境は十分だったと言えるでしょう。
 本と漫画はちがうかというと、夢中で本を読むという読書体験としてちがいはない。私の国語の成績が、他の教科よりはよかったのも、あきらかに漫画によるものでしょうし、当然、図工や美術の成績にも影響があったはず。
 それでも学校の図書室の思い出がありません。課題図書かなんか借りに行くことはあったのでしょうが、その時なにを借りたのか記憶にないし、それを読んだのかどうかさえあやしい。「野口英世物語」という本の表紙をウロ憶えしていますが、自分でそんな本を買うとは思えないので、たぶん図書室で借りたものでしょう。野口英世に興味を示すような子どもではなかったはずなんですが。
 それが今では本がないと生きて行けない人間になりました。本が好きというよりも、気になった本は買わずにはいられない。本屋をのぞくたびになにか買ってしまうので、家の中にはもう一生分の本があるような気がします。
 思えば、まだ字も満足に読めないような頃、突然「この世界はなんだろう」と感じた。それが知りたくて本を読むようになりました。それでこの世界がなんなのかわかったかと言うと、まだわからないので相変わらず本だけは読み続けています。

 

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〈特集〉本との新たな出会いを楽しむ。

 

 宮城県図書館では、本との新たな出会いを楽しむ場づくりを目指して、利用者の方々より参加者を募り、毎年秋に、『ビブリオバトルin宮城県図書館』と題してビブリオバトルを開催しており、今年11月の開催で6回目を迎えます。
 今回の特集では、ビブリオバトルのルールや魅力、これまで5回開催した『ビブリオバトルin宮城県図書館』の各回の概要をご紹介します。

●「ビブリオバトル」とは?


「ビブリオバトル」とは、「本」の意味を表す「biblio」と「戦い」の「battle」を合成した言葉。他の人にすすめたい本を紹介し合い、どの本が一番読みたくなったかを参加者全員で投票して「チャンプ本」を決める、本の紹介コミュニケーションゲームです。子どもから大人まで、誰でも、いつでも、どこでも開催でき、「知的書評合戦ビブリオバトル」とも言われています。

●【ビブリオバトル  公式ルール】

 

1. 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
  a.他人が推薦したものでもかまわないが、必ず発表者自身が選ぶこと。
  b.それぞれの開催でテーマを設定することは問題ない。

2. 順番に一人5分間で本を紹介する。
  a.5分が過ぎた時点でタイムアップとし発表を終了する。
  b.原則レジュメやプレゼン資料の配布等はせず、できるだけライブ感をもって発表する。
  c.発表者は必ず5分間を使い切る。

3. それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2~3分行う。
  a.発表内容の揚げ足をとったり、批判をするようなことはせず、発表内容でわからなかった点の追加説明や、「どの本を一番読みたくなったか?」の判断を後でするための材料をきく。
  b.全参加者がその場が楽しい場となるように配慮する。
  c.質問応答が途中の場合などに関しては、ディスカッションの時間を多少延長しても構わないが、当初の制限時間を大幅に超えないように運営すること。

4. 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めたものを『チャンプ本』とする。
  a.自分の紹介した本には投票せず、紹介者も他の発表者の本に投票する。
  b.チャンプ本は参加者全員の投票で民主的に決定され、教員や司会者、審査員といった少数権力者により決定されてはならない。

参加者は発表参加者、聴講参加者よりなる。全参加者という場合にはこれらすべてを指す。


●ビブリオバトルを愛する当館職員に聞きました 「ビブリオバトルの魅力って?」

 

今春、奈良県生駒市で開催された「第3回ビブリオバトル全国大会」に参加してきました。全国から集結したバトラーたちによる熱き戦いの他に、直木賞作家辻村深月さんの講演があり、その辻村さんの目の前で繰り広げられた辻村ファンの高校生たちによるビブリオバトルが…卓絶+爆笑=お見事! その辻村オタクっぷりが遺憾なく発揮され、辻村作品未読の私をも魅了し、結果、私は帰りに駅で文庫本を購入してました(笑) これぞビブリオバトル! (Y)

 

読書といえば、作者と読者、1対1のディープでクローズドなコミュニケーション・・・・・・。
でも、好きな本を介して他の人ともつながりたい! そんな禁じられた(?)欲望を叶えてくれるのが、ビブリオバトルです。
5分間という時間設定も絶妙。「本を通して人を知る」のとおり、限られた時間の中でバトラーやオーディエンスの隠された人柄もあぶり出す、これは本当に恐ろしい戦いなのです。(A)

 

ビブリオバトルには出会いの面白さがある。他者と、読んだことのない本と、それから自分と出会う面白さがある。本の魅力をどう伝えるか、バトラーの話のどこが響いたか(響かなかったか)を考えていくと、自分が何を好み、何に重きを置いている人間かが見えてくる。お前はそういう奴だったのか!と自分自身に驚かされることもある。
未知のものだけでなく、既知と思っていたものに光をあてる。そんな出会いの面白さがそこにある。(H)

 

★これまでの 『ビブリオバトル in 宮城県図書館』

 

・1st
平成25年11月2日(土)
『枕草子REMIX』酒井順子[著]/新潮文庫[刊]
『マリアビートル』伊坂幸太郎[著]/角川書店[刊]
『神との対話』ニール・ドナルド・ウォルシュ[作]吉田利子[訳]/サンマーク出版[刊]
『かわいい論』四方田犬彦[著]/筑摩書房[刊]
『私はなぜ80歳でエベレストを目指すのか』三浦雄一郎[著]/小学館[刊]
『It(イット)』スティーヴン・キング[作]小尾 芙佐[訳]/文藝春秋[刊]

 

・2nd
平成26年11月1日(土)
『キネマの神様』原田マハ[著]/文春文庫[刊]
『樅の木は残った』山本周五郎[著]/新潮社[刊]
『魚で始まる世界史 ニシンとタラとヨーロッパ』越智敏之[著]/平凡社[刊]
『たそがれ詩集』やなせたかし[著]/かまくら春秋社[刊]
『もうひとつのプロ野球  山本栄一郎の数奇な生涯』佐藤光房[著]/朝日新聞社[刊]

 

・3rd
平成27年11月28日(土)
『シャドウ・ダイバー』ロバート・カーソン[著] 上野元美[訳]/早川書房[刊]
『コーチングとは「信じること」』生島淳[著]/文藝春秋[刊]
『完全なるチェス』フランク・ブレイディー[作] 佐藤耕士[訳]/文藝春秋[刊]
『バナナ剥きには最適の日々』円城塔[著]/早川書房[刊]
『としょかんライオン』ミシェル・ヌードセン[作] ケビン・ホークス[絵]/岩崎書店[刊]
『野球事始仙台物語』高野真五人[著]/無明舎出版[刊]

 

・4th
平成28年11月12日(土)
【第一部 小説・物語の部】
『洟をたらした神』吉野せい[著]/弥生書房[刊]
『暗闇坂の人喰いの木』島田荘司[著]/講談社[刊]
『カンガルー・ノート』安部公房[著]/新潮社[刊]
『現代語訳南総里見八犬伝  上・下』曲亭馬琴[作] 白井喬二[訳]/河出書房新社[刊]

【第二部 小説・物語以外の部】
『妻を帽子とまちがえた男』オリヴァー・サックス[作] 高見幸郎[訳]/早川書房[刊]
『野球とアンパン』佐山和夫[著]/講談社[刊]
『ウルトラマンになった男』古谷敏[著]/小学館[刊]
『パブリックスピーキング』蔭山洋介[著]/NTT出版[刊]

 

・5th
平成29年10月26日(土)
『デミアン』ヘルマン・ヘッセ[作] 髙橋健二[訳]/新潮文庫[刊]
『われはロボット』アイザック・アシモフ[作]小尾芙佐[訳]/早川書房[刊]
『二軍史』松井正[著]/啓文社書房[刊]
『虹色のチョーク  働く幸せを実現した町工場の奇跡』小松成美[著]/幻冬舎[刊]
『これが好きなのよ  長新太マンガ集』長新太[著]/亜紀書房[刊]

 

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図書館 around the みやぎ。

 シリーズ第54回  涌谷町涌谷公民館図書室
 生涯学習課 主任主査 大平 佳矢(おおだいら  かや)

 

 

 涌谷公民館図書室は、東日本大震災で涌谷公民館が被災し利用できなくなっていましたが、涌谷公民館東館の一部を改修し、今年4月12日に愛称を「ワクワク来(らい)ぶらり」とし、オープンしました。
 温かみのある木のぬくもりが感じられる内装の図書室のほか、専門書をそろえ机やいすを配置した学習室、靴を脱いで絵本を読んだりできる談話室も整備し、夏休みには多くの小中学生の居場所になりました。
 新刊図書を定期的に購入するのはもちろんのこと、町民のみなさんのリクエストにも応じられるよう体制づくりをしております。また、談話室を利用した読み聞かせイベントなどを計画中です。
 みなさんに気軽に、ワクワクしながらふらっと立ち寄っていただけるよう、明るく温かみのある居場所を作っていきたいと思っています。
 本を読む人も、あまり読まない人もぜひ一度遊びに来てください。

 

涌谷町涌谷公民館図書室
TEL:0229-25-5501蔵書数/12,000冊
利用時間/10時~18時
●休室日/毎週水曜日
     (水曜日が祝日の場合は翌日)
     年末年始 ・特別整理期間(不定期)
住所/〒987-0147  宮城県遠田郡涌谷町字下道69-1

 

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図書館員から読書のすすめ。

『物語ること、生きること』
上橋 菜穂子[著] 瀧 晴巳[構成・文] 講談社[刊]


 上橋菜穂子さんは、日本を代表するファンタジー作家である。
ファンタジーの分類でハイ(high)とかロー(low)があるが、これは作品世界が現実から離れている度合いの高低である。上橋作品のほとんどは現実と全く接点のない異世界が舞台なので、「ハイ・ファンタジー」に該当する。だからと言って読書のハードルが高くなるかというと、全くそんなことはない。異世界が舞台になっているとはいえ、人間味あふれる登場人物、自然への畏怖そして死生観に共感できるのではないだろうか。そこには豊かな物語世界が広がっている。
 このような世界をどのように創り出しているのだろうか、どのようにして世界中に愛される物語の作家になったのか、上橋菜穂子さんへのインタビューをまとめた本書はその疑問に丁寧な答えを与えてくれる。
 原体験となった祖母の語り。どんなものにも命そして魂があるから、あらゆるものの目になってその風景を見て感じること、心の柔らかい幼少期に刻まれた感覚は「想像」の力になって作品に蘇ってくる。また、上橋さんは、『指輪物語』のホビットに影響され、本の中だけの思い出にとどまることなく、自分で自分の背中を「蹴っとばして」外の世界に飛び出した。文化人類学者として異国に行き、異文化の人々と生活をしながら研究をしている。このことは作品世界にリアリティーを与え、物語と現実が森羅万象の中でつながりあっているように感じさせる。
 上橋さんが描く物語の中で、バルサ(『精霊の守人』主人公)や、エリン(『獣の奏者』主人公)は強い女性だ。しかし、彼女たちの強さの根源につらい様々な経験があり、悩み葛藤する姿もまた印象的だ。その姿に、遠い異世界の登場人物は、一気に私の身近にせまってくる。彼女たちが「成長」するたび、自分も「成長」する。物語を読んでいる誰もが、バルサになり、エリンになるのだ。
 「物語は私自身である。」そう言い切る作家は魅力的だ。そんな物語を作り出す彼女の生き方に興味をもつことができるし、彼女の作品との共通点を探すのも、読書の楽しみである。だからこそ私は、上橋作品に飛び込んでいくのがやめられないのだ。
 (資料奉仕部 児童・視聴覚班 主任主査 藤田寛子)

 

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図書館からのお知らせ INFORMATION。

■明治150年記念企画展「明治のお宝出版物
~宮城県図書館資料で見る明治~」を開催中です。

 

 今年は、明治元年(1868)年から満150年の年に当たります。宮城県図書館では、明治150年を記念し、宮城県図書館所蔵資料の中から、普段はなかなか目にする機会のない明治期の図書、児童書、新聞・雑誌等の展示を行います。ぜひご覧ください。
●期  間 平成30年9月15日(土)~平成30年11月25日(日)
●時  間 図書館開館日の午前9時から午後5時まで
●場  所 宮城県図書館2階 展示室

 

■移転開館20周年記念講演会を開催します。


 平成30年3月で宮城県図書館が現在の仙台市泉区紫山に移転してから20年が経ちました。それを記念し、仙台市在住の漫画家・いがらしみきお氏をお招きし、講演会を開催します。
ぜひご来場ください。
●日  時 平成30年11月24日(土)午後2時から午後3時30分まで
●場  所 宮城県図書館2階 ホール養賢堂
●定  員 100名(お申し込みが多数の場合は抽選にて参加者を決定させていただきます)
 詳しくは、宮城県図書館ホームページ
 (http://www.library.pref.miyagi.jp/)をご覧ください。

 
■ビブリオバトルin宮城県図書館 6th 参加者募集


 宮城県図書館では、本や知識との新たな出会いを楽しむ場づくりを目指して、ビブリオバトルを開催します。
●期  間 平成30年11月10日(土)
●時  間 午後1時30分から午後3時まで
●場  所 宮城県図書館1階 エントランス
●募集内容 (1)発表者(バトラー)6名まで ※高校生以上対象
      (2)参加者(オーディエンス)30名まで
●申込方法 宮城県図書館ホームページの申込フォームからお申し込みいただくか、館内で配布している申込書をFAX・メール・郵送で宮城県図書館までお送りください。※先着順につき、申込結果は記入頂いた連絡先へお知らせします。
 詳しくは、宮城県図書館ホームページ
http://www.library.pref.miyagi.jp/)をご覧ください。

 

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この「ことばのうみ」テキスト版は,音声読み上げに配慮して,内容の一部を修正しています。
特に,句読点は音声読み上げのときの区切りになるため,通常は不要な文末等にも付与しています。
「ことばのうみ」は,宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第61号 2018年10月発行。

宮城県図書館

〒981-3205

宮城県仙台市泉区紫山1-1-1

TEL:022-377-8441(代表) 

FAX:022-377-8484

kikaku(at)library.pref.miyagi.jp ※(at)は半角記号の@に置き換えてください。