宮城県図書館だより「ことばのうみ」第49号 2014年11月発行 テキスト版

おもな記事。

  1. 巻頭エッセイ 『無礼者』 白幡光明
  2. <特集>利用者の参加する図書館
  3. 図書館 around the みやぎ。
  4. 図書館員から読書のすすめ。
  5. 【県図トピックス】 国立国会図書館デジタル化資料送信サービス&歴史的音源『れきおん』
  6. 図書館からのお知らせ

巻頭エッセイ 『無礼者』 白幡光明

 「無礼者,君は作家の仕事をなんと心得ているのか。作家は身を削るようにして小説を書いているんや」
 原稿を頂戴した翌日,大阪に住む黒岩重吾さんに電話をした。名前を名乗り,「昨日,お原稿を」と言ったとたん,受話器の向こうから怒りを含んだ声が響いた。新米の文芸編集者だった私は,訳が分からず,「はあ」と間抜けな返事をしてしまった。
 遅くとも前日の昼には編集部に原稿が届いているはずなのに,担当編集者から連絡がない。途中で何かあったのではないか,ひょっとしたら作品のできが良くないのではないかと大層心配されていたのである。
 お叱りのあと,黒岩さんは噛んで含めるように言われた。
 「作家は,いまどんなに売れていても明日には注文が来なくなるのでは,という不安と背中合わせで,孤独の中で書いている。その気持を理解し,第一読者として小説をきちんと評価するのが編集者の仕事やろ」
 原稿到着から一日も空けてからの電話は,まさに編集者失格だったのだ。
 私にとって幸いだったのは,これを契機に,以後いろいろな形で黒岩さんからご指導を受けることができたことだ。この出会いがなければ,私の文芸編集者としての道はなかった。
 「彫心鏤骨」という言葉があるが,作家は真っ白な原稿用紙に文字を刻み込むようにして物語を紡いでいく。本を手にするとき,作家の孤独な戦いに思いを馳せれば,また違う物語が見えてくるだろう。

著者のご紹介。

白幡光明(しらはた・こうめい)略歴

1951年、宮城県亘理町生まれ。東北大学経済学部卒業。1974年,文藝春秋入社。「週刊文春」「スポーツグラフィック・ナンバー」「文藝春秋」「オール讀物」編集部,第一出版局長を経て,2008年取締役,2011年常務取締役出版総局長就任,現在に至る。

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<特集>利用者の参加する図書館

 宮城県図書館では,図書を始めとした図書館資料を提供するほかに,利用者の皆さんの「知りたい」という知的好奇心を満たす講演会・研修会など,様々なイベントを実施しています。今回の「ことばのうみ」では,今年度開催したこれらのイベントを紹介し,本を借りるだけの場所ではない宮城県図書館の姿をご紹介します。

講演会 東日本大震災文庫展Ⅳ「小松左京の遺したもの -震災の記憶・未来へのことば-」トークイベント

 平成26年3月から3ヶ月間に渡って開催した東日本大震災文庫展Ⅳの締めくくりとして,平成26年6月21日にSF作家小松左京氏や震災記録の伝承に関するトークイベントを開催し,100名を超える利用者の皆さんにご参加いただきました。
 小松左京氏は,自ら被災した阪神淡路大震災に際して,『日本沈没』を書いた作家の責任として,震災の記憶を風化させないために,総合的な記録をまとめなければならないと考え,『大震災’95』を著しました。現在,碑が日本大震災から3年が過ぎ,我々の体験した震災の記憶を将来に引き継ぎ,未来の防災・減災に役立てていくにはどうしたらよいのか考える機会として,震災記録の伝承をテーマとしたトークイベントを企画しました。
 トークイベントでは,仙台在住のSF作家の瀬名秀明氏,東北大学教授で作家の圓山翠陵氏,小松左京氏の元マネージャである乙部順子氏の三氏にご登壇頂き,小松左京氏との関わりや自らの震災体験,震災記録を伝えていくことについてのお話を頂きました。
その中で,登壇者からほんの少しの想像力があれば防げる災害も,一度”体験”しないと我々は上手く想像できないことについて指摘があり,集めたデータを整理し,検索できるようにしたアーカイブによって災害の物理現象を記録し,そしてそのとき人間がとった行動の記録も伝えることが必要であるとのご意見を頂きました。
 また,今回の災害で個人が記録したリアルタイムの大量のデータを,将来の防災・減災に活かさなければならない,震災を体験した個人一人一人が記録を未来へ残して欲しいとの期待が述べられました。
参加された利用者の皆さんから,「今回のトークイベントで資料,データの保存,伝達の重要性が,とてもよく理解出来,大切なことだということがよく分かった。そういう図書やデータの保存,伝達のための図書館の役割はとても重要だし,大切な役割を担って欲しいと思う。」などのご意見を頂きました。

みやぎ県民大学&教養講座

 宮城県図書館では,県民の多様な学習要求に応えるため,広く県民に対し生涯学習機会を提供しています。そのうちの「みやぎ県民大学」と「教養講座」をご紹介します。
 「みやぎ県民大学」は,県内の高校や大学その他の専門施設等においてさまざまな講座を開催しており,平成26年度は48機関で61の講座が開催されています。
 当館では,9月の毎週土曜日4回にわたり講座を開催し,講師は当館の職員が務めました。
 第1回目は,昨年度,館内に移転してきた宮城県公文書館との提携事業として,開催中の企画展「知の原点 -宮城県図書館史-」について公文書館職員に解説していただきました。
 第2回目は,「仙台人名大辞典」の編纂に携わった今泉篁州(いまいずみ・こうしゅう 1866年~1939年)の足跡をたどり,蔵書である「今泉文庫」について紹介しました。
 第3回目は,図書館活用講座として「貸出・返却」だけではなく,さまざまな図書館サービスや便利な資料などにスポットを当て,情報の海を「航海」する術を紹介しました。
 第4回目は,最近話題になっている「ビブリオバトル」を紹介し,実際に職員がバトラー(発表者)になり,受講生がオーディエンス(観戦者)として票を入れていただくというバトルを展開しました。4回の講座を通して3回以上受講された方に修了証が授与されました。
 「教養講座」は,毎年,宮城県内の歴史や人物からヨーロッパの行政にいたるまで,様々なテーマで開催しています。
 今年度は10月第1週土曜日に「政宗による仙台城下のまちづくりを考える」と題して,当館の大坪富雄館長か講演しました。後世の人々の研究や古絵地図などを参考に,なぜ青葉山に築城し,仙台城下をどのような街にしたかったのか。その熱い思いの一端を紐解き,藩祖政宗が私たちに遺した街の変遷をたどりました。
 今後も多彩な情報を発信し,利用者の皆さんの興味や学習意欲の向上のお役に立ちたいと考えております。

第47回全国優良読書グループとして「拡大写本の会・宮城野」が表彰されました。

 全国優良読書グループ表彰は,読書週間(10月27日~11月9日)に公益社団法人読書推進運動競技会が読書グループ活動奨励のため行っているもの で,今年度は全国で30グループが表彰を受けました。
 本県では,「拡大写本の会・宮城野」(代表/永澤裕子氏)が表彰されました。同会は,弱視者に快適な読書環境をとの願いから,平成9年1月に発足し,以来18年間にわたり拡大写本の製作に地道に取り組んできました。仙台市宮城野図書館を活動拠点として,これまでに製作した拡大写本95タイトル386冊は同館に納本され,図書館蔵書として利用されています。
 また,図書館行事として開催した「製本講座」で手製本の技術を紹介したり,「弱視疑似体験講座」では目の不自由な方への理解啓発につとめるなど,障がいのある方も共に利用できる図書館を目指し,宮城野図書館とともに読書活動の推進に取り組んでいます。

 

 その他,宮城県図書館では,利用者の皆さんにご参加頂ける様々なイベントを定期的に実施しています。詳細につきましては,いずれも館内の掲示ポスター・チラシ及び宮城県図書館ホームページに掲載しておりますので,皆さんのご参加をお待ちしております。

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図書館 around the みやぎ シリーズ第42回 山元町中央公民館長 館長 齋藤 三郎。

 山元町中央公民館図書室は,公民館の一室に設けられた広さ86㎡余りの小さな図書室です。図書室への入口は玄関からちょっと奥まった場所にありますが,室内は窓が多く,奥に進むにつれ明るく気持ちのよい日差しが入ってきます。蔵書も,小さいながら児童書から一般書まで幅広く配架しています。
 平成23年3月の東日本大震災の際には,津波被害こそ免れましたが地震により書架が歪み,町民の皆さんにご利用いただくには大変危険な状態でした。
その後,宮城県図書館のご協力を得て,金剛株式会社のご支援を受け,耐震も兼ねた書架を寄贈いただき,平成24年7月に室内をリニューアル。以前より「明るく見やすい図書室」となりました。明るくなった図書室では,じっくり選書する方の姿も見られ,公民館を利用する方の憩いの場所となっています。
公民館内の一室という限られたスペースと蔵書数ではありますが,常に訪れた方々に季節感を感じていただき,旬の情報を提供できるよう,私たちも日々努力しているところです。
 最近では,町内で読み聞かせの会が発足し,会の皆さんが絵本を活用してくださるようになりました。
 残念ながら,大きな図書館のようにAVブースやインターネットブースなどを設けることはできませんが,本を探しに来た利用者の皆さん一人ひとりに「自分の本棚」と感じてもらえるような身近な存在となっていける図書室にしていきたいと思います。

 

山元町中央公民館の概要。

  • 蔵書冊数/児童書 4,221冊 一般書 8,745冊
  • 開館時間/午前9時~午後9時30分
  • 休館日/12月28日~1月4日
  • 住所/〒989-2203
          亘理郡山元町浅生原字日向12-1
  • 電話/0223-37-5116
  • FAX/0223-37-0119

 

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図書館員からの読書のすすめ 『ひみつの王国 -評伝石井桃子』尾崎真理子著

この本は『熊のプーさん』(A.A.ミルン作,岩波書店,1940年)『ピーターラビットのおはなし』(ビアトリクス・ポター作,福音館書店,1971年)を訳し,『ノンちゃん雲に乗る』(大地書房,1947年)を生み出した,戦後を代表する児童文学者・石井桃子さん(1907-2008年)の初の大型評伝である。石井さんは2008年4月,101歳で生涯を終えたが,87歳で自伝的小説『幻の朱い実』(岩波書店,1994)を刊行したものの,その生涯を自ら語ることは少なかった。
 実は,石井さんは戦後の一時期,宮城県鶯沢村(当時,現在は栗原市)に移り住んだことがあった。そこで鍬をふるい,牛を飼い,酪農組合を作り,「ノンちゃん牧場」の経営に奮闘していたのだ。
 鶯沢での暮らしは,101年の生涯の中ではやはり限られた期間。しかしこの地で,『ノンちゃん雲に乗る』が改稿され,『やまのこどもたち』(岩波書店,1956年),『山のトムさん』(光文社,1957年),『やまのたけちゃん』(岩波書店,1959年)など名作が生まれた。
 石井さんはしばしば鶯沢小学校にも出かけ,子どもたちに読書指導もした。この活動は,後に石井さんが東京の自宅に開いた「かつら文庫」へとつながり,全国に子どもの読書活動推進の機運を高めていった。
 本書は著者・尾崎真理子氏が,石井さんの膨大な著作,書簡等を丹念に渉猟し,本人への200時間にわたるインタビューや関係者への取材をもとに書き上げられたものである。宮城での取材は方言に苦労したという。
 巻頭には石井さんが晩年,色紙等によく記した言葉が掲げられている。
 「大人になってからのあなたを支えるのは,子ども時代のあなたです」
この言葉こそ石井さんの児童文学者としての結実と思う。ぜひ本書を手に取って,宮城とのゆかりを知り,石井さんの秘められた生涯をたどっていただきたい。

(『ひみつの王国-評伝石井桃子』尾崎真理子著,新潮社,2014年)

 

企画管理部 内馬場 みち子

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【県図トピックス】 国立国会図書館デジタル化資料送信サービス&歴史的音源『れきおん』

 絶版等で入手困難なデジタル化資料を閲覧できる「国立国会図書館デジタル化資料送信サービス」と「歴史的音源『れきおん』」が宮城県図書館でご利用いただけるようになりました。
 「国立国会図書館デジタル化資料送信サービス」でご覧頂けるのは,明治以降の貴重書(古典籍),国立国会図書館が,昭和43年までに受け入れた図書,平成3~12年度に送付を受けた論文,平成12年度までに発行された雑誌(商業出版されていないもの)など約131万点です。これらの貴重な資料を,国立国会図書館まで行かなくても,当館内で閲覧及び著作権法の範囲内で複写することができます。この中には,NHKの連続テレビ小説「花子とアン」でも取り上げられた,村岡花子の翻訳書や柳原白蓮の歌集など,話題の資料もあります。
 「歴史的音源『れきおん』」では,歴史的音盤アーカイブ推進協議会がデジタル化を行った,1900年初頭から1950年頃までに国内で製造・収録された音楽・演説等約5万点のSPレコードの音源を聞くことができます。この中には,宮城県民謡の「さんさ時雨」や,坪内逍遥本人の朗読した「ハムレット」などの貴重な音源を聴取することができます。
 いずれも,宮城県図書館に利用者登録をされている方であれば,どなたでもご利用頂けますので,是非お気軽にご利用ください。

 

ご利用方法

  • 利用カードをご持参の上,図書館の各カウンターへお申込みください(「歴史的音源」は,1F音と映像のフロアカウンターでのみお申込みいただけます。)
  • 1回の利用は30分以内です。次の方の予約がない場合に限り,延長が可能です(「歴史的音源」の延長は,1回のみとなります。)。
  • 「デジタル化資料送信サービス」については,著作権法の規程に基づく範囲内での複写物の作成(プリントアウト)が可能です(有料)。詳しくは,カウンター職員にお尋ねください。
  • 「歴史的音源」は,聴取のみ可能です。
  • いずれもデータのダウンロードや画面のコピー,写真撮影等はできません。

 

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図書館からのお知らせ

企画展『登録有形文化財 紙芝居資料の世界』を開催中です。

  昭和20年代の街頭紙芝居隆盛期には,仙台においても120人ほどの紙芝居屋がいたといいます。その中の一人,県内最後の紙芝居屋といわれた井上藤吉氏(平成19年1月逝去)から,平成7年に一括寄贈された5,000点余を宮城県図書館で所蔵しています。
 これは東日本最大級の規模で,体系的に保存された国内有数のコレクションとして貴重なものであり,紙芝居,また児童文化史の研究資料として,学術的にも評価の高いものです。
 今回は,その一端を展示しますので,ぜひご覧ください。

  • 期間:平成26年10月30日(木)~平成27年2月20日(金)
  • 時間:午前9時から午後5時まで
  • 場所:2階 展示室
  • お問い合わせ:子ども図書室 電話:022-377-8447
  • 入場料は無料です。

宮城県図書館臨時休館のお知らせ

 宮城県図書館では,蔵書点検や館内整理のため,臨時休館します。期間中の貸出資料返却は東側玄関脇の返却ポストをご利用ください(紙芝居や大型本,視聴覚資料,ほかの図書館から借りた資料は開館してから直接カウンターへお返しください。)。
 ご不便をおかけしますが,ご理解・ご協力をお願いします。

  • 期間:平成27年1月22日(木)~2月4日(水)
  • お問い合わせ:総務班 電話:02-377-8441

 

 

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この「ことばのうみ」テキスト版は,音声読み上げに配慮して,内容の一部を修正しています。
特に,句読点は音声読み上げのときの区切りになるため,通常は不要な文末等にも付与しています。
「ことばのうみ」は,宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第49号 2014年11月発行。

宮城県図書館

〒981-3205

宮城県仙台市泉区紫山1-1-1

TEL:022-377-8441(代表) 

FAX:022-377-8484

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