宮城県図書館だより「ことばのうみ」第67号 2020年10月発行 テキスト版

おもな記事。

  1. 巻頭エッセイ。
  2. 〈特集〉市町村図書館等返却制度を利用して、より気軽に、 より便利に
  3. 図書館 around the みやぎ。  
  4. 図書館員から読書のすすめ。 
  5. 図書館からのお知らせ。 

巻頭エッセイ『指栞』。イラストレーター 佐藤ジュンコ。

 放課後の図書室に閉じ込められてしまったことがある。隅のほうの本棚の前で立ったまま本を読むのに夢中になっていたら、急に目の前が真っ暗になった。振り返って本棚の隙間から覗いた空もすでに暮れている。読んでいたページに指を挟んだまま、本棚や椅子や机にぶつかりながら出口を探す。壁に掛けられているはずの時計の針は見えないけれど、利用時間を過ぎてしまっているのだろう。いつもなら先生が声をかけてまわり、生徒たちを見送ってから鍵を閉めるのに、声に気がつかないくらい本に没頭していたのか、それとも本棚の暗がりに私が溶けてしまっていたのか。図書準備室の扉にはめこまれた小さな磨りガラスの窓だけが、ぼんやり明るい。先生の小さな丸まった背中が一瞬大きく浮かび上がり、窓を飲み込んで消える。明かりも消える。奥の方で別の扉が開く音がして、廊下から蛍光灯の明かりが差し込み、鍵の束が鳴って光は細くなっていく。遠くの影絵を眺めるようだった。こつこつ、本を持っていない方の手で扉を叩くと、再び明かりがともり影絵は終わった。

 その本を借りる手続きをした覚えも本棚に戻した覚えもない。何の本だったのかも思い出せない。私が本棚に溶けてしまうかわりに、本が私に溶けてしまったのかもしれない。いまここにいる私ではない私、夜が更けていく図書室であのままページをめくり続けた私、ここではないどこかにいるかもしれない私のことを、ときどき思う。

著者紹介。

 佐藤ジュンコ(さとう・じゅんこ)。

 イラストレーター。1978年生まれ。福島県伊達市出身。仙台市在住。著書『佐藤ジュンコのおなか福福日記』など。

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〈特集〉市町村図書館等返却制度を利用して、 より気軽に、 より便利に。

 宮城県図書館では、平成29年8月から市町村図書館等返却制度の運用を開始しました。

 この制度は、県図書館から借りた資料を、お住まいの市町村の図書館や公民館図書室に返却できる便利な制度です。これまで多くの方にご利用いただいております。

 今回の特集では、そんな市町村図書館等返却制度の中身について詳しくご紹介します。

市町村図書館等返却制度とは?

  宮城県図書館から直接借りた本やCD・DVDを、お住まいの市町村や通勤・通学している市町村の図書館・公民館図書室へ返却できる制度です。返却いただいた資料は、市町村図書館等から県図書館に返却されます。「本を返却したくても、県図書館に行く時間がない……」「県図書館まで行くのが大変……」そんなときはこの制度を是非ご利用ください。

市町村図書館等返却制度ができるまで。 

 制度開始以前は、県図書館に来館して借りた資料は、県図書館に直接返却しなければなりませんでした。しかし、「県図書館の近くを通りかかった際に本を借りようと思うが、返却時に県図書館まで足を運ばなければならず、自宅や職場からは遠いため躊躇してしまう」「県図書館で借りた資料も地元の市町村図書館で返却できないか」といったご意見を多数いただき、また、同様のご意見が市町村の図書館にも寄せられていることがわかりました。

 これを踏まえ、他県の制度を参考に、平成28年度に本制度の調製に着手しました。まず、県図書館内での意見を集約し、素案を作成しました。その素案を元に市町村の図書館や公民館図書室から意見をいただき、本制度の大枠が固まりました。平成29年1月20日から2月28日を周知期間、3月1日から7月31日を試行期間として運用を始め、本制度の参加館と相談しながら、返却票の修正や利用できる資料の訂正等少しずつ改善を加えていきました。そして、平成29年8月1日から正式に運用を始め、今日に至ります。

 本制度の導入により県民へのサービスが拡大したことで、県図書館の利用促進に繋がりました。また、利用者の皆様が市町村の図書館や公民館図書室へ資料を返しに行くことで当該施設の利用促進にも繋がっています。

市町村図書館等返却制度の利用方法。 

●資料(図書・CD等)を借りるとき。〔県図書館で借りる〕。

①借りたい資料を持って窓口に行く。

②窓口担当者に「市町村返却希望です」と伝え、借りたい資料を渡す。

③窓口担当者から、借りる資料とともに貸出票(レシート)と返却票を受け取る。 ※貸出票と返却票は無くさないようにしてください。

●資料を返すとき。〔お近くの図書館・図書室に返却する〕。

①返却票の利用者控えの太枠内に返却数を記入する。

②返却票のキリトリ線より下の貸出票(レシート)貼付欄に貸出票を貼り付ける。 ※貸出票を無くされた場合は、資料ID(青いラベルに記載されているバーコード番号)をご記入ください。

③返したい資料と、返却数・資料ID明記済みの返却票を持って、お住まいの地域又は通勤・通学されている地域の図書館等に行く。

④窓口担当者に「県図書館から直接借りた資料です」とお伝えいただき、返したい資料と返却票を渡す。

⑤窓口担当者から、返却票の利用者控えを受け取る。 ※利用者控えは念のため1ヶ月間保管してください。

市町村図書館等返却制度Q&A。 

Q ブックポストへ返却したいのですが、可能ですか?

 ブックポストへの返却はできません。資料は返却票と一緒に市町村図書館等窓口へご返却ください。

Q 制度を利用できる資料について教えてください。

 県図書館の窓口で直接借りた県図書館の資料に限られます。また、大型絵本や大型紙芝居、及び相互貸借資料(県図書館を通じ市町村の図書館・公民館図書室から借りた資料)は対象外です。

Q 制度を利用し借りた本は、一冊ずつ返却しても大丈夫ですか?

 同日に借りた資料は一度にすべてご返却ください。

Q 市町村図書館等へ返却後すぐに県図書館の資料を借りたいのですが……。

 市町村図書館等に返却後、2週間程度の間に、県図書館で新たな貸出を希望される際は、返却確認のため、返却票の利用者控をご持参ください。返却票の利用者控が無い場合は、新たな貸出ができません。

 返却した市町村図書館等から県図書館へは週1回の便で資料を搬送しており、県図書館に資料が届き、返却処理が完了するまで最大2週間程度かかることがあるためです。

Q 市町村の図書館や公民館図書室であればどこでも返却できるのですか?

 居住又は通勤・通学している市町村の図書館等に限ります。また、この制度を利用できない図書館等もございますので、県図書館窓口にご確認ください。

県図書館担当者の声。 

 利用者の皆様の声を元に始まったこの市町村図書館等返却制度は、開始より3年が経過しました。本制度の導入により、お住まいの地域が遠く、これまで県図書館で資料を借りることを諦めていた方にも資料を提供することができるようになりました。これも市町村の図書館や公民館図書室の職員の方々のご協力があってのことです。ありがとうございます。

 チラシ・ポスターの作成や、県図書館HPへの掲載、市町村の図書館・公民館図書室での周知等により、市町村図書館等返却制度の利用件数は昨年度は約1,400件にも及び、本制度が利用者の皆様に浸透してきたことがわかります。今後は、SNS等若年層にも響くメディアを用い、本制度の魅力を発信していきたいと思います。

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図書館 around the みやぎ。

シリーズ第59回,東北大学附属図書館。東北大学附属図書館 館長 大隅 典子(おおすみ のりこ)

 東北大学附属図書館は、本館、4つの分館、14の図書室により構成されています。図書館・図書室は、それぞれ専門とする分野があり、それに沿って図書、雑誌等の資料を収集しています。一番大きな本館は、川内キャンパスにあり、全学部の1、2年生が受講する基礎的教育向けの資料と文系学部・研究科向けの専門的な資料を揃えています。国宝2点を含む約11万冊の古典資料コレクション「狩野文庫」や夏目漱石の旧蔵書や自筆資料の「漱石文庫」など、数多くの貴重なコレクションも所蔵しています。これに対して、例えば医学分館は医学系の、工学分館は工学系の専門的な資料を中心に揃えているなど、得意分野が館・室によって異なります。

 明治44年(1911)、当時の東北帝国大学に附属図書館が設置されてから100年以上にわたり、教員・学生が必要とする資料を収集し、提供することにより、本学の教育・研究活動を支援してきました。近年はオンラインでのコンテンツ提供にも力を入れ、電子ブック(約1万7千)、電子ジャーナル(約1万3千)や各種データベースを教員・学生に提供しています。

 当館では、地域社会における学術研究支援も使命と考えています。学外の方も利用登録ができますし、古典資料等についても企画展示を定期的に開催し、学外へ積極的に公開しています。現在は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、学外の方の利用を制限していますが、収束後には、ぜひご利用ください。 。

東北大学附属図書館。

蔵書数冊/420万冊。

開館時間/[本館] 9:00~20:00。(通常期は8:00~22:00ですが、感染拡大防止のため短縮開館。)

休館日/[本館] 土日祝。(通常期は土日祝も開館ですが、感染拡大防止のため休館。)

※利用条件は館・室によって異なります。事前にHP等でご確認ください。

住所/〒980-8576

宮城県仙台市青葉区川内27-1。

TEL:022-795-5943。FAX:022-795-5949。

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 図書館員から読書のすすめ。

『裸婦の中の裸婦』。澁澤 龍彦・巖谷 國士[著], 文春文庫/文藝春秋[発行]。

 「汲んでも、汲んでも涸れない井戸のような人」―澁澤龍彦夫人の龍子さんが、氏を喩えて表した言葉です。言い得て妙だな、と思うのは、本当に澁澤さんという方は、文学はもちろん、絵画、映画、神話、民俗、何を論じても超一流の審美眼と分析力を持ち得た人だからです。呆れるほど語彙が華麗であると同時に豊富なのに、決して難解にならず読む人を惹きつけてやまない文章を著す、という奇跡の物書きでもありました。

 そんな澁澤氏は1987年8月、59歳の若さで頸動脈破裂のため亡くなりました。前年に喉頭癌の診断を受けながらも、文藝春秋で持っていた連載に精力的に取り組んでいたのですが、その連載をまとめたものがこの『裸婦の中の裸婦』です。古今東西の芸術作品の中から好みの裸婦像を選び、彼一流の視点から書き綴る、という内容でした。しかしあと三回を残すという時になって癌の治療のため入院した澁澤氏に後を託され、親交の深かった巖谷國士氏が引き継いで完成させた、という構成になっています。

 取り上げられた裸婦像は十二点。クラナッハ・ベラスケスなど歴史的画家の作品から、バルテュス・デルヴォーら澁澤氏が日本に紹介したといってもいい画家の作品、さらには四谷シモン氏の球体関節人形、ヘルムート・ニュートンの写真まで、「汲めども尽きせぬ」澁澤氏のコレクションらしく多岐に渡っており、それぞれにおける語り口や観点もたいへん興味深いものとなっています。特筆すべきは文章が、澁澤氏による叙述という体裁ではなく、架空の登場人物たちが対話しているディアローグの形をとっているところでしょうか。このため非常に読みやすく、初めて澁澤氏の世界に足を踏み入れる、という方にもおすすめできる一冊です。

 サド侯爵やジョルジュ・バタイユなど、いわゆる倒錯・禁断といわれる分野においては右に出る者がないほど造詣の深かった澁澤さんですが、その人柄と文章はあくまで清澄、明朗の風を帯びていたのではないか、と没後も尽きることのない人物評や作品論を見て感じます。澁澤氏亡きあと、しばらく制作に取り掛かることができなかったという四谷シモン氏が翌1988年に完成させた、「天使―澁澤龍彦に捧ぐ」という作品は、あのサモトラケのニケを彷彿とさせる、純白の羽と衣をまとった静謐な佇まいの天使像でした。

 近しい人から見たらきっと澁澤さんは、そういう人だったんだろうな、と今でも時々、思うことがあります。

資料奉仕部,資料情報班,町田 由起子。

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図書館からのお知らせ INFORMATION。 

企画展『市町村図書館展 : 宮城県内の図書館・図書室の輪』を開催中です。 

 宮城県には多くの魅力的な図書館や図書室がありますが、お住まいの地域の施設以外は、なかなか知る機会は少ないように思います。今回 の企画展では、皆様に身近な図書館・図書室を取り上げながら、宮城県図書館を仲介とした宮城県全域の「図書館の輪」についても、ご紹介いたします。

●期間/令和2年8月1日(土)~11月22日(日)。

●時間図書館開館日の午前9時から午後5時まで。

●場所宮城県図書館2階展示室。

MICAの登録にご協力ください!

 宮城県図書館では、現在、新型コロナウイルス感染拡大防止対策を講じながらサービスを行っています。宮城県図書館を利用される場合は、みやぎお知らせコロナアプリ(MICA)の登録にご協力願います。宮城県図書館でコロナ感染者が認められた場合に、感染情報を発信します。

レストランがオープンしました

 令和2年8月26日(水)、宮城県図書館西側1階地形広場前にレストラン「PANORA(パノラ)」がオープンしました。

 杜の息吹を感じるおしゃれな空間です。ぜひご利用ください。

●営業時間、午前9時~午後7時。

●URL、https://www.panora.cafe/。

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この「ことばのうみ」テキスト版は,音声読み上げに配慮して,内容の一部を修正しています。
特に,句読点は音声読み上げのときの区切りになるため,通常は不要な文末等にも付与しています。
「ことばのうみ」は,宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第67号 2020年10月発行。

宮城県図書館

〒981-3205 宮城県仙台市泉区紫山1-1-1 TEL:022-377-8441(代表) FAX:022-377-8484 kikaku@library.pref.miyagi.jp