宮城県図書館だより「ことばのうみ」第66号 2020年7月発行 テキスト版

おもな記事。

  1. 巻頭エッセイ・特集。
  2. 〈特集〉貴重映像の宝庫 16ミリフィルムの魅力と活用。
  3. 図書館からのお知らせ。 
  4. 図書館員から読書のすすめ。 
  5. 図書館 around the みやぎ。 

巻頭エッセイ『帯の仕事』。作家 郷内心瞳。

 今から二十五年以上も前。中学時代、私が読書という趣味に嵌まり始めた頃である。将来は、書籍の帯をデザインする仕事がしたいと考えていた時期がある。

 書籍の下部にぐるりと巻きつけられた、あの細長い紙のデザインをする仕事である。

 限られたスペースの中に、書籍の世界観を凝縮したキャッチコピーや様々な趣向を凝らした意匠が施された書籍の帯というものが、私は大好きだった。

 短くも印象深いコピーと、それに添えられた、やはり短いながらも明快な説明文は、「読む」というより「見る」という感覚で、瞬時に目から頭へ情報が入りこんでくる。

 書店で平積みにされた新刊の表紙カバーのデザインやタイトルだけでは食指が動かなかった本も、帯に記されたコピーに興味をそそられ、思わず手に取り中を開いてしまう。

 当時、そんな経験を何度もしていたため、帯のデザインにすっかり魅せられてしまった私は、こんな仕事がしてみたいなとぼんやり考えていたのだが、結果として斯様な仕事はないということがのちに分かって、淡い希望は自然消滅してしまった。

 帯のデザインを担当するのは、主に編集者やデザイナーの仕事であり、帯の製作のみを専門とする職種など、この世に存在しないのである。

 代わりというわけではないのだが、なんの因果か長じた私は、帯のデザインではなく、本そのものを書くという仕事をしている。編集者とデザイナーの神業で、拙著の世界観が魅力的に表現された帯を見るのが、デビュー以来の密かな楽しみになっているのである。

著者紹介。

 郷内心瞳(ごうない・しんどう)。

 1979年、宮城県生まれ。郷里で拝み屋を営む。2013年、「調伏」「お不動さん」の2作で第5回『幽』怪談実話コンテストで大賞を受賞。著書に『拝み屋怪談 怪談始末』をはじめとする「拝み屋怪談」シリーズ、「拝み屋備忘録」シリーズ、「拝み屋異聞」シリーズがある。18年8月、「拝み屋怪談」シリーズがドラマ化された。

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〈特集〉貴重映像の宝庫 16ミリフィルムの魅力と活用。

 宮城県図書館では、様々な上映会を行っています。その中に、16ミリフィルム(幅16mmの動画用フィルムで、以下通称の「16ミリフィルム」とする。)の上映会があります。これまで多くの方に16ミリフィルムの上映会に参加していただきました。

 さて、皆様は16ミリフィルムをご存じでしょうか。かつては、16ミリフィルムを使った上映会は、どこにでもありふれた光景でしたが、今やフィルムもそれを映す機材も少なくなり、すっかり見かけなくなりました。16ミリフィルムの映像を一度も見たことがないという方も増えてきています。

 そこで、今回は16ミリフィルムについて特集し、16ミリフィルムとはどのようなものか、どのような魅力があるのか、そしてどのように点検や保存しているのかなどをご紹介します。

16ミリフィルムとは?

  現在、動画の映像技術は進歩し、デジタル化された映像が主流となっています。それ以前は、フィルムによる映像が専らでした。フィルムによる映像は、連写された静止画像を高速でコマ送りすることにより、パラパラ漫画のように画像が動いて見える仕組みになっています。19世紀末にフィルム映画が発明されて以来、約一世紀もの間映像はフィルムの時代で、フィルムによる映像は様々な技術を発展させながら現在まで受け継がれてきました。

 それでは、映像用のフィルムにはどのようなものがあるのでしょうか。フィルムには、いくつか種類があり、その規格はフィルムの幅によって区別されています。主なフィルムの規格は、8mm16mm35mmの幅のフィルムが使用されてきました。本館に所蔵されているフィルムの多くは、幅が16mmのもので、いわゆる16ミリフィルムです。 

 8mmは、カメラを小型化できることから主に家庭用のムービーカメラに用いられました。35mmは、フィルムの幅が広いので大型でプロフェッショナル仕様のカメラに使われました。35mmは、比較的フィルムの品質も良く、耐久性に優れているので、一度に大勢の人が鑑賞できる映画館のような商業的な場所で使用されました。

 8mm35mmの間にある16ミリフィルムは、8mmよりも高度に撮影することができる一方で、35mmよりは低予算で簡単に撮影することができました。上級アマチュア用として需要が高く、幅広い用途で普及し、小規模施設での上映に用いられました。特に、学校や図書館、公民館などの公共施設での上映には、16ミリフィルムが上映規模に適していました。県内の様々な公共施設で使われていた16ミリフィルムが、本館に多く寄贈されてきたという経緯があります。

どのような16ミリフィルムがあるのか? 

  本館には、約2300本もの16ミリフィルムが所蔵されています。1950年代後半から1970年代にかけて制作されたものが多く、ジャンルとしては地域の様子を記録したものや教養、娯楽、学習教材のものが大半を占めます。

 地域の様子を記録したものには、『宮城県政ニュース』があり、県内各地の貴重な映像が収められています。公共施設の建設状況や住民の生活の様子、地域の各種活動の取組などを紹介しています。

 例えば、1978年の宮城県沖地震についての記録があり、当時の被災状況や復興活動など、映像で詳しく紹介され、防災上の観点から教訓として今に伝えるべきことがたくさんあります。また、1960年代頃、石巻沖にある網地島や田代島に住む人々の暮らしについて撮影されたフィルムがあり、現在よりずっと人口が多く、活気あふれる様子が伝わってくる内容となっています。仙台市では、赤煉瓦時代の県庁舎、新幹線が開通される前の仙台駅、アーケードがない時代の仙台七夕など、昔の懐かしい市街地の様子を見ることができます。

 「短編映画100選」(『日本短編映像秀作目録』社団法人映像文化制作者連盟1999年)として選出された作品も所蔵しています。『彫る-棟方志功-』では版画家の棟方志功の芸術とその世界を描き、『自然界のつりあい-動物の数は何できまるか-』では何%の毛虫が成虫になるかを追跡記録した科学作品、『おふくろのバス旅行』では貧しい農家の人々が明るい未来を切り開こうとするドキュメンタリー、『六人姉妹』では愛情に満ちた家庭の中で成長していくホームドラマ等々、各分野にわたって秀逸の作品を多数取りそろえています。いずれも16ミリフィルムでしか見ることができない映像です。

 また、アニメも多く所蔵しており、ソユズムリトフィルム(旧ソ連アニメスタジオ)の『雪の女王』や『黄金のかもしか』などは、芸術性、制作技術に優れ、今では幻とされる作品です。『やさしいライオン』は、やなせたかし原作、手塚治虫制作の両巨匠がコラボレーションした作品で、数々の賞に輝きました。

 他にも、数多くの貴重な作品、優れた作品があります。これらの作品は、フィルム特有の光源による映像や映写機の発するわずかな機械音によって味わいが増します。16ミリフィルムは、時代を反映した内容もさることながら、映写機で映す独特の雰囲気によってさらに作品の持つ魅力を引き出してくれるのです。

どのように点検や保存をしているのか? 

 フィルムの点検作業には、ボランティアの方々に協力をいただいています。

 所蔵している16ミリフィルムを活用できるようにするために、まず16ミリフィルム一本一本を点検しています。本館1階「音と映像のフロア」のワークルームには、ドイツ製の16ミリフィルム専用の編集機があります。ちなみに編集機が現役で使える状態で残っているのは全国的にも大変珍しいようです。ボランティアの方がこの編集機を使って、フィルムのタイトル、企画・制作者、制作年、上映時間、内容、フィルムの状態など確認し、分かった事項を用紙に記録しています。さらに、ボランティアの方には点検したことをパソコンに入力するなど、16ミリフィルムのリストの作成にも携わっていただいています。

 フィルムの保存作業にも、ボランティアの方々に協力いただいています。

 16ミリフィルムに限らずフィルムは、非常にデリケートで年数や環境などによって劣化が進行します。フィルムは高温や湿気に弱い性質があるので、冷暗で通気性の良い所で、空気に多く触れないように保管する必要があります。

 そこで、劣化を防ぐために、紙製の箱に入っていた16ミリフィルムを専用のアルミ缶に入れ替える作業をしています。アルミ缶は、酸化しにくい素材で通気性を適度に確保するような造りになっています。

 ただ、アルミ缶へ入れ替える前に、いくつかの工程が必要になります。まず、16ミリフィルムが元々入っていた紙製の箱も重要な情報源になるので、写真撮影してデータとして保存しておきます。次に、16ミリフィルムに劣化の状態を判定するための試験紙を貼り、試験紙と一緒に16ミリフィルムを酸化防止用のシートで包みます。そして、アルミ缶には、シートに包まれた16ミリフィルムと一緒に酸化防止剤を入れます。最後に、アルミ缶にラベルとシールを貼って作業は一通り終了となります。アルミ缶に入った16ミリフィルムは、4階の書庫で保管されています。

 ボランティアの方々と共にこのような点検・保存の作業を進めて、何十年経っても16ミリフィルムをご覧いただけるように努力していきたいと考えています。

どのように活用をしているのか? 

 16ミリフィルムは、デリケートで扱いが難しいため、通常の貸出を行っていません。

 しかし、資料として貴重な16ミリフィルムを県民の皆様に活用していただくために、上映会を行いご覧いただく機会を設けています。

 16ミリフィルムの上映会には、大きく二つに分けて館内と館外の上映会があります。

 館内の上映会は、年3回の「懐かしの16ミリフィルム上映会」、年1回の「ボランティアによる16ミリフィルムの上映会」があります。「懐かしの16ミリフィルム上映会」は、数あるフィルムの中から職員が選定して上映会を企画したもので、「ボランティアによる16ミリフィルムの上映会」はボランティアの方が推薦したものを上映しています。どちらも、本館2階の「青柳館」(定員92名)で行われます。

 館外の上映会には、年3回の「宮城県庁16ミリフィルム上映会」と市町村の図書館等に依頼されて行う「16ミリフィルム出前上映会」(平成31年度は1件実施)、その他公共施設・地域住民等の要請に応じ出張して行う上映会(平成31年度は4件実施)があります。

 どの上映会も、2、3本の作品で1時間半程度の上映時間を設定しています。まれに長い尺のフィルムもありますが、ほとんどは短編で気軽に観ることができます。選りすぐりの作品ですので、見応えのある内容となっています。

 所蔵している16ミリフィルムの数が多く、なるべく様々な作品を上映するようにしています。そのために、一度上映した作品は出番が回ってくることがなかなかありません。作品との出会いそのものが大変貴重なものとなります。年間にすると上映する機会が限られていますが、これらの上映会を通して多くの方々に観ていただきたいと思っています。

 どの上映会も参加費は無料です。今年度は、新型コロナウィルス感染症拡大の防止から上映会を予定どおりに開催することができていませんが、感染症の流行が収まり次第、上映会を行いたいと考えています。開催することになりましたら、上映会の日時や作品等の詳細を、館内の掲示、チラシ、本館ホームページ等でお知らせいたします。いつでも開催できるように準備を進めていますので、皆様と上映会でお会いできることを楽しみにお待ちしています。

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図書館からのお知らせ INFORMATION。 

「仙台府学養賢堂図」修復。 

 宮城県図書館では、貴重資料修復事業を平成16年度から継続していますが、令和元年度は仙台藩校を描いた「仙台府学養賢堂図」を修復いたしました。

 「仙台府学養賢堂図」は側面図と平面図からなります。平面図には建物や部屋の名称・用途などが記されており、側面図は養賢堂を俯瞰的・絵画的に描いています。作者は不詳ですが、この2紙によって藩学養賢堂の全容をうかがい知ることが出来ます。

 修復を終えた2紙の画像は、宮城県図書館HP上の「叡智の杜Web」に公開いたしました。どうぞご覧下さい。

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 図書館員から読書のすすめ。

『誰か故郷を想はざる』。寺山 修司[著], KADOKAWA/角川文庫[発行]。

  「東北の作家」といった時、皆さんは誰を思い浮かべるでしょうか。

 私は東北らしい作家の一人として、真っ先に寺山修司の名を挙げたいと思います。昭和10年、弘前市に生まれた寺山修司は、中学時代の俳句創作から出発して以後、短歌、詩、演劇、映画、小説、評論、作詞……と多彩なジャンルを横断しながら、表現者としての早熟な才能を開花させ、その研ぎ澄まされた言葉を武器に戦後の時代を疾走しました。享年47歳。今年で没後37年となります。

 寺山修司の創作の原点には、逃れられない〈故郷〉と〈自伝〉との格闘がありました。「おまえは走っている汽車のなかで生まれたから、出生地があいまいなのだ」と母ハツが話した冗談めいたエピソードに、寺山修司は強くとらわれます。そして「俺の故郷は汽車の中」という〈物語〉を生きようとします。「いままで故郷だと思ってきたのは、ほんとうは嘘で、私の故郷は他にあるのではないだろうか。」 寺山修司には〈故郷〉とは〈異郷〉の裏返しでもあるという一所不在の屈折した認識があります。

 一方、その表現世界は、生まれ育った青森の風土とは切り離すことはできません。何より寺山修司の言葉は生涯、ふるさとの“訛り”とともにありました。さらに少年期に、太平洋戦争で父八郎は戦病死し、母ハツは戦後を生き抜くため米軍基地に働きに出ます。戦後の〈喪失〉と〈不在〉の感覚は寺山修司の世界を貫く強力なモチーフの源泉になっています。

 『誰か故郷を想はざる』の本書タイトルも実は「引用」です。作詞・西条八十、作曲・古賀政男による昭和15年のヒット曲で、「自分の故郷を想わない人はいない」という戦時歌謡の反語的表題です。この歌を寺山修司は幼い頃によく口ずさんでいたようで、これをそのまま虚実相半ばする自伝的エッセイのタイトルにしています。

 「花摘む野辺に 日は落ちて みんなで肩を くみながら 唄をうたった

   帰りみち 幼馴染の あの友この友 ああ 誰か故郷を 想はざる」

 寺山修司の言葉は、今この不透明な時代を生きる私たちにどんなことを問いかけてくるのでしょうか。

 

 資料奉仕部 根岸 一成

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図書館 around the みやぎ。

シリーズ第58回,宮城県視覚障害者情報センター。宮城県視覚障害者情報センター所長,小 澤 聡(おざわ  さとし)

 宮城県視覚障害者情報センター(旧点字図書館)は、昭和38年に宮城県立視覚支援学校(旧盲学校)の敷地内に設立された、障害者福祉法に基づく目の不自由な方のための情報提供施設です。平成214月より指定管理者制度により公益財団法人宮城県視覚障害者福祉協会が管理運営を行っております。

 主に点字図書やデイジー図書の貸出を行っており、図書の内容は文芸作品をはじめ実用書や専門書から娯楽的な分野、週刊誌や月刊誌と、幅広く取り揃えております。なお、貸出・返却に係る送料は無料です。

 また、次のサービスも行っております。

  ①点字を学びたいという目の不自由な方のための点字訓練

  ②図書をはじめ資料等についての相談及び日常の社会生活における相談への対応

  ③電化製品等の説明書など、日常生活において必要とする生活関連資料等を点訳または録音して提供するプライベートサービス

  ④定期刊行物等による、新刊図書情報や生活情報の提供

  ⑤視覚障害者用情報機器・便利グッズの体験及び操作講習

 この他、点字図書や録音図書を製作するボランティアの養成も行っております。興味のある方はHPをご覧ください。

 日々、目まぐるしく変化していく現代、必要な情報やニーズも多様化していきますが、目の不自由な方々に対して、「より豊かな情報」を提供できるよう努めて参ります。

 

宮城県視覚障害者情報センター。

    数/点字図書13241タイトル。

     デイジー図書8902タイトル。

     テキストデイジー図書150タイトル。

     (20203月末現在。)

開館時間/9時~17時。

閉館日/土日(第1、第3日曜日を除く)、祝日、年末年始。

住所/〒980-0011。

宮城県仙台市青葉区上杉六丁目5-1。

TEL:022-234-4047。FAX:022-219-1642。

HP/http://www.miyagi-sikaku.org/。

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この「ことばのうみ」テキスト版は,音声読み上げに配慮して,内容の一部を修正しています。
特に,句読点は音声読み上げのときの区切りになるため,通常は不要な文末等にも付与しています。
「ことばのうみ」は,宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第66号 2020年7月発行。

宮城県図書館

〒981-3205 宮城県仙台市泉区紫山1-1-1 TEL:022-377-8441(代表) FAX:022-377-8484 kikaku@library.pref.miyagi.jp