宮城県図書館だより「ことばのうみ」第9号 2002年1月発行 テキスト版

おもな記事

  1. 表紙の写真
  2. 表紙エッセイ 「遠野考」 シンセサイザー音楽家 姫神さん
  3. 特集 宮城県図書館の120年を振り返る
  4. 貴重書の世界 朝鮮本(韓本) 三綱行実図
  5. わたしのこの一冊 霜山徳爾著「仮象の世界」
  6. 図書館からのお知らせ

表紙の写真。

「本日開館。公衆ノ来館ヲ許ス。此ノ旨公告ス。」
漢字とカタカナで記されたこの1文は、明治14年7月25日、宮城県図書館の前身である「宮城書籍館(みやぎしょじゃくかん)」が開館した際に、「東北毎日新聞」や「宮城日報」に新聞広告として1週間にわたり掲載されたものです。
今回の表紙の写真は、宮城県図書館開館120周年を記念し、明治14年に宮城書籍館が設置された宮城師範学校の様子をご紹介しています。なお、宮城県図書館の歩みは、今回の特集で取り上げています。

図書館アートシリーズ その5。

今回は、図書館建物の南側に広がる遊歩道「書見の道」の途中にある「あずまや」をご紹介しています。この「あずまや」は、美術家・川俣正さんの作品です。

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表紙エッセイ 「遠野考」 シンセサイザー音楽家 姫神さん。

 岩手県、遠野市の早池峰神社の境内でコンサートを開いた折に、地元の古老から聞いた話しは今でも脳裏に焼き付いている。
 ある日のこと、早池峰神社を修復していた大工の者たちが夕方になって帰らんとする頃、何処からともなく一人の女が現われて、私の社(やしろ)も修復願いたいと申し出たという。境内の隅を見ると、そこには古ぼけた小さなお稲荷さんの社があった。大工の者たちは驚きながら、いったいこの女は何者かと不思議に思ったそうだ。
 この話しを聞いた地元の者たちは、それはお稲荷さんの化身であろうということになって、衆議一決、社を早速に修復したそうだ。
 コンサートの前日、真新しいその社に手を合わせながら、今も自然の神々に対して畏敬の心を持って暮らしている遠野人に、私は強い衝撃を受けたのだった。柳田国男が遠野物語で、平地人を戦慄せしめよと云ったのは、まさにこの事ではないかと思った。

著者のご紹介。

ひめかみ。本名、星吉昭(ほし・よしあき)。シンセサイザー音楽家。宮城県若柳町出身。1980年に「姫神せんせいしょん」を結成し、翌年「奥の細道」でデビュー。1984年に「姫神」と改める。テレビ・ラジオ番組、CMのテーマ曲も数多く手がけ現在までにアルバムを20枚以上リリースしている。2000年には、日本人として初めて、エジプトGIZAピラミッド前と、エルサレム・ミュージアム広場での聖地コンサートを実施した。

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特集 宮城県図書館の120年を振り返る。

平成13年7月25日、宮城県図書館は設立120周年を迎えました。
名称や建物は度々変わりましたが、120年という長い期間、絶えることなく続いてきた公立の図書館は他に例を見ません。
今回の特集は、宮城県図書館の120年の歩みを振り返ります。

設立当時のこんなはなし。

 当時、宮城書籍館は師範学校の中にあり、講堂を閲覧室にあてていました。このため、師範学校の入学式や卒業式のときには休館になっていました。当時の開館時間は、宮城書籍館規則第3条によると「本館ハ毎日午前第8時ニ開キ午後第7時ニ閉ツ 但毎年7月11日ヨリ9月10日マテハ午前第7時ニ開キ午後第7時ニ閉ツ」となっています。

ドーム型の新館。

 大正元年、大卒者の初任給が45円だったころに、総工費5万9164円99銭9厘で建設された新館は、レンガ造りの書庫以外は木造でした。しかし、中央にドーム型の屋根を持ち、非常に近代的な感じの建築様式であったため、のちに秋田県や岩手県にも影響を与えたと言われています。

戦争と図書館。

 昭和20年4月、戦況が厳しくなる中、貴重書の疎開作業が始められました。当時、この作業には、徴兵された男子職員に代わって女子職員のみがあたっていました。また、疎開費用がままならず、当時の館長が図書館のドーム型屋根の中の鳩の糞を肥料代わりに疎開先へ送り、費用の一部弁済にあてたという言い伝えもあります。
 しかし、こうした疎開作業がまだ十分に進まないうちの7月に仙台空襲に見舞われ、疎開できなかった資料約13万冊と建物を焼失しました。
 一方、被災後の図書館は、空襲から5日後の7月15日には、仙台市元鍛冶町の当時の館長宅に臨時仮事務所を置き、早くも図書の収集や館外貸し出しを始めたという記録があります。
 また、戦後まもなくから昭和30年代にかけては、資料収集に奔走する日々が続き、館長自らがリュックを背負い、東京へ本を買いに行ったというエピソードも残っています。更に、書店だけでなく個人のお宅へ本を譲り受けにリヤカーを引いて行ったりしていました。職員が一丸となって図書館復興のために働いた時代と言えます。

無料で利用できるようになったのは。

 図書館の利用が原則無料になり、誰でも自由に閲覧や貸し出しができるようになったのは、実は、戦後しばらくしてからのことです。明治42年には、図書の貸し出しを受ける人の条件として「官公立学校職員及び官公吏」または「直接国税3円以上を納めている成人」などという制約がありました。また、戦後間もない昭和24年には、図書館閲覧料条例が定められ、図書の閲覧料として1回2円を徴収していました。しかし、昭和25年の図書館法制定を受け、昭和26年までにこの条例は廃止されました。
 戦前の日本の図書館は、資料を大切にするあまり、職員が厳しく利用者を監視し、本には鎖がついているなどと言われていたほどです。こうした図書館の古いイメージを廃し、利用者が自分の読みたい本を直接書架から取り出せるようになったのは戦後のことなのです。

本を届ける。

 宮城県図書館は、設立から現在まで、分館は設けず1館で運営してきました。しかし、県の図書館である以上、県全域へのサービスの実現が課題でした。そこで、昭和43年、配本車による資料貸し出しをスタートしました。これは、県図書館の本を50冊ずつ行李に詰め、市町村図書館や公民館に箱単位でお届けして、地域の住民の方々に利用していただくものです。さらに、市町村図書館や公民館から遠く、図書館サービスが利用できない地域へは、移動図書館車「こかげ号」を昭和44年から運行し、山間の小さな分校などを中心に巡回しました。この移動図書館車には巡回先の市町村公民館などの職員の方々にも乗務してもらい協力して貸出し等を行っていました。「カッコウワルツ」の音楽とともにやってきたこかげ号のことをご記憶の方も多いのではないでしょうか。.

まちの図書館を支える。

 配本車や移動図書館の運行は、県図書館が直接本を届けるものでしたが、2〜3か月に1度の巡回で、しかも冬期には運行できないなどサービスとしては限界がありました。そこで、平成3年から、市町村図書館に対し、その図書館が必要とする資料を届けるための協力車の運行が始まりました。県図書館は、住民の方々の最も身近にある図書館である市町村図書館を支えるため、図書館の図書館として活動すること、すなわち、住民の方々の要求に応えるため、市町村図書館に資料を貸し出すことが業務の大きな柱として位置付けられています。これにより、県内どこに住んでいても、身近な図書館から県図書館の資料が利用できるようになりました。現在もこの協力車は利用が増え、活発に運行していますが、市町村図書館の設置がなかなか進まず、県全域へのサービスとしてはまだまだこれからです。地域の特性にあった図書館活動をするためには、すべての市町村に図書館があることが理想です。現在の県図書館は、まだ図書館のない町村への働きかけや、図書館づくりの支援もしています。

坤輿万国全図(こんよばんこくぜんず)。

 平成2年に国の重要文化財に指定された坤輿万国全図は、長さ約170cm、幅約60cmの巻物6軸からなる非常に大きな世界地図です。完全な刊本としてのわが国での所蔵は、個人の所蔵のものは別にして、京都大学図書館と宮城県図書館で確認されています。京都大学図書館所蔵のものは、全図の中に印刷されているイエズス会のマーク(3個)がすべて削り取られていますが、本館所蔵のものは残されています。
 この世界地図の由来は実のところよくわかっていません。おそらく、すぐれた洋学者の多かった仙台藩の天文方にあったものが藩学養賢堂を通して入ったものと推定されています。

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時空をこえて 貴重書の世界 朝鮮本(韓本) 三綱行実図(さんこうこうじつず)。

朝鮮・李朝の第四代国王である世宗(1397年〜1450年)の要請により編纂された教訓書。儒学で社会の根本とされる三つの大綱、「忠」=君臣の秩序、「孝」=父子の秩序、「貞」=夫婦の秩序を解説したもの。それぞれの綱の模範となる行いを選び、図と漢文による解説、詩及び賛により説明している。図の上欄には漢文と同じ内容を諺文(ハングル)で記述している。ちなみに、儒学(朱子学)は李朝の国教、ハングルは1446年、世宗が「訓民成音」の名で公布したもの。日本では、江戸時代にこの教訓書を題材にした浮世草子が発行されるなど国内にもたらされた影響も大きい。初版は1432年に刊行されたものであるが、本館所蔵は1579年、第十四代国王宣祖のときに改訳刊行された「宣祖改訳三綱行実図」、木版本で、伊達家所蔵のものに由来。なお、宮城県図書館ではこれを含めて46点、262冊の朝鮮本(李朝時代の刊行本)を所蔵している。そのうち、朝鮮の誇る銅活字本は15点である。

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わたしのこの一冊 「仮象の世界 −「内なるもの」の現象学序説−」 霜山徳爾著 思索社 1990年(新装版発行)。

目ざめと癒やし。
 この書は、表題のもとに「人間とは何か」を精神病臨床医であり、大学教授でもある著者の臨床心理学、精神病理学、人間学からの客観的、実証的な考察である。
 ところが、専門書の難しさを越えて、直かに温かく語りかけ、知性と芸術の豊穣な沃野と底知れぬ深淵への道に、同行を許される。
 −いつか、人間の生涯には、夕づけて夏がかすかになりやみ寂滅の静かな歌が聞こえてくるようになる−と緩徐調で始まり、「仮象の世界」が展開する。「直立、両手、横臥、病気」、「初の微笑、遊戯」、「哀歓、共感、共苦」など人間学の基本から身体と精神の直結、更に「汝、他者」との絆の存在の「内なるもの」の豊かさと翳りが、冷静な科学に立脚し、温かな視点により、克明に釈かれる。
 著者は、少年期に美しく変幻する万華鏡を壊し、小さな鏡と色紙の断片に「内なるものの変調」を感知したという。学生時代には、戦時下、暗く飢もじい明日知れぬ命に、東都の大学図書館での耽読の日々もまた「仮象の世界」「内なるもの」への探究の原体験となり「心の基調」になっていると述懐している。
 誠に、本書を貫く主旋律は、人間の根源に目ざめ、互いの困難な通路と旅路に「ちえ」と「なさけ」の必要と癒やしを促すものである。
 驚くほど多彩で的確な引例も、古今東西の先達の魂に触れる至福、実に稀な、魅力いっぱいの「私のこの一冊」である。

今回のこのコラムは仙台市在住の高橋澄さんにご寄稿いただきました。

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図書館からのお知らせ。

特別整理期間のための休館日。

資料の特別整理のため、下記の期間は休館します。
ご不便をおかけしますが、ご理解とご協力をお願いします。
休館期間:平成14年2月19日(火曜日)から平成14年3月5日(火曜日)まで。

街頭紙芝居展。

仙台の紙芝居屋さん、井上藤吉さんの紹介や原画を展示しています。
展示期間:平成14年3月30日(土曜日)まで。(ただし特別整理期間などの休館日を除く。)時間は午前9時30分から午後5時までです。
展示場所:2階 展示室。

郷土関係資料をご寄贈ください。

 宮城県図書館では、県内で刊行された図書や雑誌または郷土や郷土人に関する資料を広く集めています。それを誰もが利用できるようにし、次の時代への文化遺産として保存していくことは図書館の最も重要な使命です。個人の方あるいは団体で新たに出版されました時には、是非ご寄贈くださいますようお願いします。詳しくは次の担当までお問い合わせください。
 郷土資料担当 電話022−377−8482。FAX022−377−8494

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この「ことばのうみ」テキスト版は、音声読み上げに配慮して、内容の一部を修正しています。
特に、句読点は音声読み上げのときの区切りになるため、通常は不要な文末等にも付与しています。

「ことばのうみ」は、宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第9号 2002年1月発行

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