宮城県図書館だより「ことばのうみ」第64号 2019年10月発行 テキスト版

おもな記事。

  1. 巻頭エッセイ・特集 
  2. 〈特集〉ご存知ですか? 宮城県図書館のボランティア
  3. 図書館員から読書のすすめ
  4. 図書館からのお知らせ 

   

巻頭エッセイ『心の食べ物』童話作家 わたりむつこ。

 

私には故郷が三つある。五歳まで暮らした神戸、戦争中、身を寄せた宮城県白石、小学生の途中から暮らした海辺の町、福島県南相馬である。

 戦時下の神戸で、母は古本屋で紙芝居や子供向けの全集を購入、実家に送ったが食糧難の時代、食料でなかったので、実家の家族を失望させたらしい。でも、縁側で母が演じる紙芝居を私は心から楽しみ、今でも大事に保存している。全集は兄と私の共有物となったが、私が好んで読んだのは世界の名作もので、昭和初期に文藝春秋社から発行された小学生全集である。活字は小さかったが、すべての漢字にルビがふってあるのがうれしかった。その多くは紛失してしまったが、菊池寛訳の「家なき子」「ロビンソン漂流記」「ギリシャ神話」などはまだ手元に残っている。バーネットの「秘密の花園」には夢中になり、庭に夢を抱くようになった。生家の白石の庭は広く、野菜や果物を沢山実らせた働き者の祖母の姿は深く心に残り、やがて絵本「いちごばたけのちいさなおばあさん」につながった。また長編「はなはなみんみ物語」シリーズの舞台は、森と海と焦土と化した大地なのだが、なんとそれは私の三つの故郷に符号するもので、そのことに驚き、故郷の持つ力に感動している。そして今、亡き母が幼い頃の私に心の食べ物を遺してくれたことに感謝の念を抱いている。

 

著者紹介。

わたり むつこ(わたり・むつこ)

宮城県白石市生まれ、東京女子大学日本文学科卒業。「はなはなみんみ物語」シリーズ全三巻で産経児童出版文化賞、「もりのおとぶくろ」(のら書店)で産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を受賞。その他「いちごばたけのちいさなおばあさん」「こよみともだち」(福音館書店)などがある。東京都在住。

 

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〈特集〉ご存知ですか? 宮城県図書館のボランティア

 

宮城県図書館のボランティア制度が始まったのは、1998(平成10)年3月です。榴ヶ岡にあった旧館から現在の紫山への移転に合わせて創設されました。

 スタート当時は、「書架整理」「展示室案内」「音訳」など5つの分野で45名の方が活動していましたが、その後活動分野や登録者数も徐々に増えていき、現在では7つの分野で85名の方(平成314月現在)が活動しています。

 宮城県図書館では、職員だけでなくボランティアの方々の協力のもとにサービスを行っており、ボランティアの方々に支えられています。

 今号では宮城県図書館でのボランティア活動についてご紹介します。


●こんな活動をしています

 

1 書架整理(一般図書)

2 書架整理(児童図書)

3 書架整理(視聴覚資料)

 

  • 活動の場所は ?

 一般図書は3Fの一般図書のフロア、児童図書は2Fの子ども図書室、視聴覚資料は1Fの音と映像のフロアで各々活動しています。

 

  • 活動内容は ?

 返却された資料を元の書棚に戻したり、書棚を整理したりする作業がメインです。

 宮城県図書館では資料の分類法として、NDC(日本十進分類法)を採用しており、資料の並びもそれに従っています。また、児童図書や視聴覚資料はNDCに加え、独自の分類が使われています(紙芝居や絵本、CDDVDの区別など)。

 活動を始める前の説明や、実際の活動を通してNDCや独自の分類を習得し、利用者の方が資料を探しやすいように、図書館を使いやすいように、環境づくりを行っています。

 また、年に1回行われる蔵書点検では、職員とともに詳細な並び順の点検などの総仕上げをしています。

 

  • ボランティアさんに聞いてみました

* 空いている時間を有効に使いたいと思って始めました。元々本が好きで、たまたま募集が目についたのがきっかけです。要領が分かると自分のペースで作業ができるようになりました。新しい本を手に取れたり、普段はあまり読まないような分野の本に触れたりすることができるのが楽しみです。

* 元々図書館の利用者として通っていました。書架をきれいにしたい、みんなが利用しやすいようにしたいと思って活動しています。

* よみきかせボランティアをしているので、子ども図書室をよく利用していました。何か恩返しができたらと思い、図書館でのボランティアを始めました。活動中子ども達の声が聞こえてくるのが喜びになっています。

* 空いている時間を利用して、社会貢献出来ればと思って始めました。元々映像が好きだったこともあり、視聴覚の整理に登録しています。資料のご案内など小さいお子さんやお母さん方、色々な世代の方とのふれあいを楽しんでいます。自分が目立つように並べた資料が貸出されるととても嬉しくなります。資料の並びは、数字やローマ字で規則性があり、すぐに覚えてしまいました。

 

4 16ミリ映画フィルム点検

 

  • 活動の場所は ?

 1F音と映像のフロアの事務スペースで活動しています。

 

  • 活動内容は ?

 宮城県図書館では2,000点以上の16ミリ映画フィルムを所蔵しています。年数が経っているものが多く、劣化の進んでいる資料が少なくありません。11本映写機にかけてフィルムの状態を確認し、クリーニングを行い、長期保存ができるようにしています。また、映像の内容を確認して、リスト作成を行っています。16ミリ映画フィルム上映会などイベント開催にも参加しています。

 

  • ボランティアさんに聞いてみました

* 写真が好きで、上映会などを見て興味を持ち、始めました。元々8ミリを触っていたので、操作に慣れていたのも理由の1つです。年に何度か16ミリボランティアが集まる機会があり、昨年はボランティアで今後のやり方などを提案することができました。最近はどちらかというとデータ整理が多くなっており、実際に上映機やフィルムに触れる機会は少なくなっています。上映機の研修などで操作するときがとても楽しみです。16ミリフィルムという貴重な財産に触れること、過去の記録をその時撮影した状態で見られることがとても魅力的です。

  

5 図書館案内

 

  • 活動の場所は ?

 2Fの展示室です。

 

  • 活動内容は ?

 展示室での受付や案内などを担当しています。展示室では常設展に加え、本館所蔵の貴重資料などをテーマとした特別展や、職員が企画する企画展を行っており、展示内容が変わるたびに内容に関する研修に参加し、来場者へのガイドを行っています。また、図書館内全般に対する問い合わせにも対応しています。

  

  • ボランティアさんに聞いてみました

* リタイア後に空いた時間を有効に使っています。一足先に新しい展示を見て学べることや、展示室から見える四季折々の風景を楽しんでいます。ボランティア同士、利用者の方とコミュニケーションが出来るのも魅力的で、案内で喜んでもらえたりすることがとても励みになっています。

 

 

6 市町村図書館協力

 

  • 活動の場所は ?

 1Fの事務室内です。

 

  • 活動内容は ?

 職員と一緒に協力便の発送・開梱作業をしています。協力便とは、市町村図書館と貸出資料・返却資料のやりとりをすることで、毎週水曜日に市町村図書館等への貸出資料などの梱包・発送、毎週金曜日に市町村図書館等から届く資料の開梱を行っており、その作業に参加しています。

 また、1階の地域情報発信コーナーで、ポスターの掲示や配布チラシの整理等、環境整備も行っています。

 

  • ボランティアさんに聞いてみました

* 図書館の普段見られないところを見てみたいと思って始めました。本が好きなので、色々な本に出会えると期待していましたが、実際には手に取ってもじっくり読む機会はありません。ですが、たくさんの本を見ることができます。また運動不足の解消にもなっています。図書館同士の本の貸し借りが思った以上に多くて驚きました。(梱包)

 

7 音訳サービス

 

  • 活動の場所は ?

 1Fの音訳サービス室12です。

 

  • 活動内容は ?

 主に目の不自由な方を対象に、直接資料を読む対面音訳、電話での音訳、テープやCDへの録音などを行っています。音訳は、朗読とは異なり「書かれている内容をそのまま音声に置き換える」ことです。内容を正しく聞き取りやすく伝えるために、活動を始める前や活動をしながら、専門講座を受けて音訳に臨んでいます。録音作業では当館発行の広報誌『ことばのうみ』や、地域情報などを紹介する『声の情報誌』や郷土資料を、電話音訳では利用者の希望に合わせて雑誌や新聞記事などを音訳しています。

 

  • ボランティアさんに聞いてみました

* 空いている時間を活用したい、ということと、以前からよみきかせのボランティア等をしていてもっと長文を読みたい、話す練習がしたいと思ったのが始めたきっかけです。始めるまでは読むだけの作業かと思っていましたが、機械の操作も活動に含まれていて驚きました。録音作業は複数人で行っているので楽しく、録音物が出来るので達成感があります。また、社会と繋がっているという実感もあります。ここでのボランティアをきっかけとして、他のボランティアにも参加するようになりました。

 

●宮城県図書館でボランティアを始めるには・始めると。

 

18歳以上(高校生を除く)の県民のどなたでもご参加いただけます。年に2回(8月ごろ、1月ごろ)募集を行っています。募集は館内館外でのポスターや宮城県図書館HPでお知らせしていますので是非ご覧ください。

 登録時には活動分野や活動日時を決めて、その中でご都合の合う日に活動しています。登録前に全般的な講座を、登録後には各活動場所での研修を受けて活動が始まります。また、登録は開始時から翌年の3月までとなっていますので、継続して活動する場合には更新の手続きが必要です。

 そのほか全体の研修会や、分野によっては分野内の打ち合わせや研修の機会を設けており、情報や知識の共有を行っています。

 ボランティア活動についてご興味ご質問などある方は、企画協力班(022-377-8444)までお問い合わせください。

 

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図書館 around the みやぎ。

シリーズ第56回 名取市図書館

名取市図書館 館長 柴崎 悦子(しば さき     えつこ)

平成301219日、名取市図書館は、JR名取駅前東側の複合ビルに移転開館しました。ビルは、名取駅から直接ペデストリアンデッキでつながっており、同じ建物内には増田公民館や学習塾などが入っています。

 名取市図書館は、東日本大震災でそれまで使用していた建物に甚大な被害を受け、日本ユニセフ協会やカナダからの支援で建てた仮設の図書室で7年間運営してきました。仮設とはいえ、木造で木の香りが心地よい素敵な図書室でしたが、人口7万人の市の図書館としてはあまりにも小さく、市民の皆様には大変ご不便をおかけしてきました。

 このたび開館した図書館は、面積が約3,000㎡、旧館時代の約4倍になりました。収蔵能力は30万冊で、現在は19万冊ほどの蔵書があります。

 館内は2フロアに分かれており、下の階のエントランスから続く場所にはカフェコーナーや新聞雑誌コーナーを配置しました。奥には児童コーナーもあり、「にぎやかなフロア」をコンセプトにしたこの階は、様々な世代の方々の交流の場にしていきたいと考えています。

 一般書を中心とした上階は、「静寂のフロア」というコンセプトのもと、落ち着いた大人の雰囲気を持った空間となっています。このフロアの「情報発信コーナー・名取の宝ばこ」では、郷土資料や行政資料、東日本大震災に関する資料を集め、様々な機関と連携しながら積極的に地域の情報を発信しています。

 生まれ変わった名取市図書館に、ぜひ足をお運びください。

 

名取市図書館

蔵 書 数/図書191,852

     視聴覚4,292点(H30年度末現在)

開館時間/火~金 9:0019:00

     土日祝 9:0018:00

     ※カフェコーナー及び新聞雑誌

      コーナーのみ7:30

  • 休館日/毎週月曜日・毎月第4水曜日

     (祝日の場合は翌平日)

     年末年始(1229日~13日)

住  所/名取市増田四丁目7-30

TEL:022-382-5437 FAX:022-382-5706

 

 図書館員から読書のすすめ。

『平成史』 小熊英二【編著】 河出書房新社【発行】(版元品切中)

30年間にわたる「平成」から、新天皇即位に伴って新元号「令和」に改元された。

 これを機に平成を振り返ってみようとしたとき、果たして「平成」は一体どのような時代だったのか。時代史として捉えようとすると、それは決して容易なことではない。「平成」は何を物差しとして見れば、時代を象徴して捉えることができるのだろうか。そもそも「平成」という元号の括りで一時代を捉えることができるのだろうか。本書は、それらの疑問に答えるように、  「平成」を様々な角度から照射して一つの時代として総括し、読者に提示することを試みている。

 本書は、複数の執筆者がそれぞれのテーマで章を担当して構成されているが、編著として名立たる執筆者を束ね、自らも序章と最終章を執筆しているのが慶應義塾大学総合政策学部教授の小熊英二氏である。小熊氏は、1990年代後半から若くしてオピニオンリーダーとして注目され、繊細かつ鋭い視点で日本の社会の様々な問題に踏み込んできた論客である。

 時代史と言えば、これまで専ら歴史学が担ってきた。本書でも触れられているが、かつて1955年に発刊された遠山茂樹・今井清一・藤原彰共著『昭和史』(岩波書店)は戦争を軸として歴史学のアプローチで「昭和」という時代を描いてきた。しかし、戦後数十年経った「平成」という時代は、戦争を指標にして捉えることができないのはもちろんのこと、二大政党を軸とした「55年体制」が終わり、政治的に政党の再編を繰り返し複雑化した状況が続いた。高度経済成長が終焉し、バブル経済崩壊の延長に「平成」があるので、経済的にも単純に論じることができない。変化が著しく捉え所が難しい「平成」という時代に対して、社会現象を社会科学的に追究しようとする社会学の手法を用いて論じようとするのは妥当であると言える。

 ところで、「平成」という枠組みで時代を捉える意味についてであるが、「平成」は、国内的には長い経済停滞の時代に入り、「無党派層」の増大によって政党の支持率が不安定化する時期と重なる。また、世界ではソ連崩壊による冷戦体制が終結し、グローバル化と高度の情報化が進展する転換期でもあった。「平成」は国内的にも国際的にも大きなうねりに突入していく時代であるが、小熊氏によれば時代の変化と「平成」という元号との重なりは偶然のようで必然的なものがあったと言う。その理由については、本書を読んで確かめていただきたい。

 本書は、「平成」を一概に捉えることができず、多岐の分野で社会の変化を捉えようとしているので、ページ数・文章量が多くなっているが、読者に寄り添うような平易な書き方に努めており、結論が明解に示されている。したがって、この一冊を読むと、「平成」はどのような時代で、この先どこへ向かおうとしているのか、道筋が見えてくるような分かりやすい内容となっている。

 今回の改元を機に、本書で「平成」を再認識するに当たり、『日本という国』(イースト・プレス)を初めとする小熊氏の著書、『池上彰の世界から見る平成史』(角川新書)や吉見俊哉『平成史講義』(ちくま新書)など他の「平成史」を合わせて読んでいただくことをお薦めしたい。

 「平成」を単に懐かしむだけでなく、時代史を通して知の世界を探究してみてはどうだろうか。

 (児童・視聴覚班 主幹 坂本 謙)

 

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図書館からのお知らせ INFORMATION。

■ビブリオバトル in 宮城県図書館 7th 参加者募集

宮城県図書館では、本や知識との新たな出会いを楽しむ場づくりとして、ビブリオバトルを開催します。当館での開催も7回目になりました。ぜひ奮ってご参加ください!

  • 期  日 令和元年119日(土)
  • 時  間 午後130分から午後3時まで
  • 会  場 宮城県図書館1階 エントランス
  • 募集内容 (1)発表者(バトラー)6名まで ※高校生以上対象

       (2)参加者(オーディエンス)30名まで

  • 申込方法 宮城県図書館ホームページの申込フォームからお申し込みいただくか、館内で配布している申込書をFAX・メール・郵送で宮城県図書館までお送りください。※先着順につき、申込結果は記入いただいた連絡先へお知らせします。

詳細は、宮城県図書館ホームページ

http://www.library.pref.miyagi.jp/)をご覧ください。

 

■臨時休館・年末年始休館のお知らせ

宮城県図書館ではシステム更新のため、臨時休館します。休館期間中は宮城県図書館HPや資料検索等が利用できない場合がありますので、ご了承ください。期間中の資料の返却は東側玄関脇の返却ポストをご利用ください(紙芝居や大型本、視聴覚資料、他の図書館から借りた資料は開館してから直接カウンターにお返しください)。また、臨時休館後はそのまま年末・年始の休館となります。

  • 臨時休館 令和元年1216日(月)から1228日(土)まで
  • 年末年始休館 令和元年1229日(日)から令和214日(土)まで

●お問い合わせ 総務班 TEL 022-377-8441

 

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この「ことばのうみ」テキスト版は,音声読み上げに配慮して,内容の一部を修正しています。
特に,句読点は音声読み上げのときの区切りになるため,通常は不要な文末等にも付与しています。
「ことばのうみ」は,宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第64号 2019年10月発行。

宮城県図書館

〒981-3205

宮城県仙台市泉区紫山1-1-1

TEL:022-377-8441(代表) 

FAX:022-377-8484

kikaku(at)library.pref.miyagi.jp ※(at)は半角記号の@に置き換えてください。