おもな記事
巻頭エッセイ『本に呼ばれる』 フリーアナウンサー 渡辺 祥子
図書館と聞いて真っ先に思い浮かぶのが、知人から聞いた話です。その知人が小学生の頃、図書館で何気なく見た一冊の本に目が留まり、夢中になって読み進めるうちに気がつけば夕暮れになっていた、という話。一息に読み切ったその本のタイトルは『不思議の国のアリス』。まさに彼女は不思議の国に誘われた のです。そしてその後成長した彼女は大学で文学部に進むという、何とも物語のようなエピソードです。
たまたま手に取った本がその後の彼女の進む道を拓いたという偶然。でもこれは単なる偶然ではなく、意図していなかったかもしれないけれど彼女には何らかの準備が整っていて…、あたかも「本に呼ばれた」かのような経験だったのではないかと思うのです。
私たちは、調べ物をするために、お目当ての本を探すために、など本を選びに図書館に足を運びます。でもそこで、偶然の出会いも経験しているのではないでしょうか。前述の女性のような経験ほど劇的ではないにしても、思いもかけない本と出会った(本に呼ばれた!?)経験は、どなたにでもあるのではないかと思います。実は私はそこに図書館の魅力を感じ、目的を持たずに足を運ぶことが多々あります。
図書館は、自分の関心事の様々な情報を探せる場であるとともに、自分の関心の外に出られる(既存の関心の枠を超えられる)場でもあります。検索をすればするほど自分の関心のある情報が表示されるAIとの決定的な違いがここにあるのでは、と思う私。今日も思いもかけない出会いを求めて、図書館へと向かうのでした。
著者紹介
渡辺祥子(わたなべ・しょうこ)
1991年フリーアナウンサーとして独立し、仙台を拠点に幅広い分野で活躍。98年より朗読家としての活動を開始し、活動の場を全国に広げると共に、「言葉の力・生きる力」をテーマとした講演や執筆にも取り組む。2022年6月より情報誌『りらく』編集長、2023年4月より障害者の就労をサポートするNOP法人「ほっぷの森」副理事長も務める。
〈特集〉ようこそ、子ども図書室へ!
子ども図書室では、子どもたちに本や言葉に触れる機会や場を提供し、子どもの読書環境の充実を図るため、0歳から中学生くらいまでの方が利用しやすい本を幅広く集めています。また、貸出だけでなく図書の相談や紹介、おはなし会や季節に関連した展示なども行っています。今回は、子ども図書室と、その取組についてご紹介します。
子ども図書室に入ってすぐに目に入るのは、部屋の全面に広がる大きな窓です。木々の色が豊かに移り変わり、春は山桜、初夏は緑、秋は紅葉、冬は銀世界など、四季折々の景色が楽しめます。美しい自然を眺めながらの読書は、心身のリフレッシュにもおすすめです。他にも、定期的におはなし会が催されるおはなしコーナーや、掲示物や展示コーナーも季節ごとに準備するなど、楽しくて居心地の良いフロアを目指しています。
◆子ども図書室を知ろう!
Q:子ども図書室には何冊ぐらい本があるの?
A:子ども図書室の書架には、貸出用として約35,000冊の本や絵本、約1,200点の紙芝居が並んでいます。それとは別に、子ども図書室内に置ききれない本は書庫に入れています。お探しの本が見つからない場合は、カウンターにお声がけください。
Q:子ども図書室にはどんな 本があるの?
A:赤ちゃんが楽しめる絵本や小学生が調べものをする際に役立つ図鑑、小中学生から大人世代まで幅広く読める小説や新書、紙芝居もあります。また、児童資料について研究するための本も所蔵しています。新しく購入した児童書の情報は、子ども図書室だより「子どもの森・本のいずみ」で毎月紹介しています。こちらは、子ども図書室内で配布しているほか、宮城県図書館のホームページでもご覧いただけます。
Q:おはなし会を聞いてみたいのだけれど…?
A:子ども図書室では、おはなし会を開いています。場所は、子ども図書室の中にある黄色い「おはなしコーナー」です。時間は約30分で、小さなお子さんから小学生まで、幅広い年齢の方に楽しんでいただける内容です。開催日など、詳しくは子ども図書室内で掲示している「おはなし会カレンダー」などをご確認ください。
Q:季節に合った絵本が読みたい!
A:子ども図書室では、毎月テーマを決めて絵本を紹介しています。他にも、季節や行事に関連する展示もしています。展示の内容については、ポスターの掲示や宮城県図書館のホームページでご確認いただけます。
◆子ども図書室の取組
▶ 子どもの本展示会
「こどもの読書週間」に合わせて、読書活動の推進を目的に毎年開催しているもので、今年は2024年に出版された児童書の中から、当館所蔵の絵本や読み物、ちしきの本、児童書研究書など、約2,000冊を展示しました。会場では、絵本を楽しむご家族や面白そうな本を発見して喜ぶ子どもたち、児童書をじっくりと読み味わう大人の方々の姿が見られ、本との出会いを楽しんでいる様子がうかがえました。
※今年度の展示会は、令和7年4月18日から5月8日まで開催されました。
▶ よみきかせ研修
おはなし会を行う際に必要な、よみきかせ等の基本的知識と技能を習得し、県内の子どもの読書活動を推進する担い手としての資質・能力の更なる向上を図ることを目的とした講座を開催しています。令和7年度は、初心者の方々を対象に、おはなし会を構成する様々なプログラムの中から基本的なものを中心に、5月から9月まで、全9回開催します。期日が近くなりましたら、ホームページや館内ポスター等でお知らせします。
▶ 子ども向けパスファインダー(本のしらべかたガイド)
パスファインダーとは、あるテーマについて調べるときに、関連する本や資料など、情報の探し方をまとめた案内です。主に小学生のみなさんを対象にしていて、調べ学習にも活用することができます。現在は14のテーマについてのパスファインダーがあり、例えば「お米についてしらべてみよう」、「みやぎの祭りについてしらべてみよう」などです。さらに、「化石についてしらべてみよう」に関連して「化石マップ」があり、宮城県図書館内の大理石で見つけることができる化石を紹介しています。このマップを持って化石探検してみませんか。パスファインダーは子ども図書室に設置しているほか、ホームページで見ることもできます。
▶ りんごの棚
誰もが読書を楽しめるように作られた「バリアフリー図書」を集めたコーナーを作りました。例えば、大きな活字の本や、触って楽しむ布絵本や点字図書、手話の絵本などがあります。4月の「子どもの本展示会」にもコーナーを作り、展示しました。
▶ 子ども図書室の利用時間
開館 : 開館日の午前9時から午後5時まで(日曜日と祝日は全館午後5時に閉館します。)
午後5時以降(閉館する午後7時までの間)に、子どもの本の返却や貸出、予約された本の受け取りをする場合は、1階の音と映像フロアもしくは3階の一般図書カウンターまでお越しください。
図書館 around the みやぎ
シリーズ第73回 柴田町図書館 館長 畑山 慎太郎(はたやま しんたろう)
柴田町図書館は、2010年にしばたの郷土館内の「ふるさと伝承館」に開設しました。しばたの郷土館は、宮城県内で唯一「さくらの名所100選」に選ばれている船岡城址公園の麓にあり、桜だけでなく四季折々の花を楽しむことができます。また、2016年には、槻木地区にある槻木生涯学習センター内に槻木分室を開設し、町全域へのサービスの充実を図っています。図書館での貸出返却サービスのほかにも、乳幼児の絵本デビューを応援するブックスタート、新入学児童への絵本プレゼントや中学一年生への文庫本プレゼントなど、すべての世代が読書を楽しむための環境づくりにも力を入れています。
現在、柴田町ではしばたの郷土館を含む船岡城址公園周辺エリア全体の整備を行っており、その中でも図書館を交流や賑わいを創り出す拠点施設として位置づけ、新しい図書館の建設計画を進めているところです。新しい図書館では、基本的なサービスの充実はもちろん、誰にでも利用しやすく、心安らぐ居心地の良い場所となるようさまざまな読書空間を整備するほか、子どもたちの心の豊かさを育む場、住民同士の交流の場としての機能も備えるなど、より多くの方に利用していただけるような、魅力的な図書館となるよう、実現に向けて話し合いを重ねています。これからも、地域に根ざした、愛され親しまれる図書館を目指していきたいと思います。
柴田町図書館
蔵書数/66,470冊
(令和7年3月31日現在)
開館時間/火~金曜日 午前10時~午後7時
土日祝日 午前10時~午後5時
休館日/月曜日、館内整理日(第4木曜日)、年末年始、特別整理期間
住所/〒989-1603 宮城県柴田郡柴田町船岡西1丁目6-26
TEL:0224-86-3820/FAX:0224-86-3821
図書館員から読書のすすめ
『えーえんとくちから』 笹井宏之 著 ちくま文庫 出版
「えーえんとくちから」という文字列を見る。あるいは音を聞く。口に出してみる。
「えーえんとくちから」ってなんだろう。
えーえんと/くちから?
永遠と(いう言葉を)口から(発すること)?
えーえんと(いう泣き声が)口から(あふれ出ること)?
本書『えーえんとくちから』は笹井宏之による歌集。歌集とは多くの場合、短歌を集めた本のことを指す。そして短歌とは文字どおりみじかい歌のこと。具体的には五七五七七の三十一音から成る定形詩と説明される。俳句や川柳よりは長いが、それでも一首(短歌は一首、二首と数える)の歌を読むのに一分とかからない。ゆっくり読んでもせいぜい二十秒ほどではないかと思う。「本を読むのは嫌いだが、とにかく何らかの本を読む必要に迫られている」という人がいたとしたら、歌集を読むといい。歌集には余白も多い。一冊を読み終えるのに必要な時間はさほど多くない。
けれど、歌集を読んでいると、そのみじかい歌の前で立ち止まり、いつまでもその歌と見つめあってしまうことがある。鋭く胸に飛び込んできて、深く突き刺さって抜けない歌がある。ふーんと思って通りすぎても、五七五七七の足音でうしろからついてくる歌もある。歌集を開いている時間は短いかもしれないが、ひとたび開けば生涯忘れることのできない歌との出会いがあなたを待っている、かもしれない。
今回「わたしの一冊」として紹介するのは『えーえんとくちから』。本書のタイトルは収録作品のなかの一首によるもので、以下に引用する。
えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力をください/笹井宏之
わたしが笹井宏之という若い歌人のことを知ったとき、彼は既にこの世の人ではなかった。短歌という詩型の、限られた音数の中で歌われるからこそ、「永遠解く力」に手を伸ばし、「ください」と願うこころの切実さが迫ってくる。初めて読んだときからずっと、わたしはこの歌の前から歩み去ることができずにいる。
この歌を目にして立ち止まってしまった、刺されてしまった、ふとしたときに思い出してしまいそう。本書はそんなあなたにとっての特別な「わたしの一冊」になるに違いない。
資料奉仕部 資料情報・震災文庫班 藤田ゆき乃
図書館からのお知らせ INFORMATION
■企画展「昭和百年 懐かしのベストセラー本とその時代」
2025年、私たちは昭和の始まりから数えて百年という節目の年を迎えます。
昭和の時代は、経済不況に始まり、相次ぐ戦争、戦後の復興、高度経済成長や、バブルの幕開けまで、激しく移り変わる社会の中にありました。
本展示では、激動の時代の中で人々に愛され、読み継がれてきた「ベストセラー」と呼ばれる図書の数々を、当館の所蔵資料の中からご紹介いたします。あわせて、年ごとの「ベストセラー」と出来事を、年表形式で展示し、書物と時代の関わりに目を向けます。また、1881(明治14)年に「宮城書籍館」として産声を上げ、幾多の変遷を経てこの紫山の地に至るまでの当館のあゆみも、貴重な資料とともにご紹介いたします。
本展示から書物を通じて映し出される「昭和」という時代の多様な姿と、人々の心の動きを感じ取っていただけましたら幸いです。
皆様のご来場を心よりお待ちしております。
・期間 令和7年6月7日(土)から令和7年8月31日(日)
・場所 宮城県図書館2階 展示室
・お問合せ 一般図書班(022-377-8481)
この「ことばのうみ」テキスト版は、音声読み上げに配慮して、内容の一部を修正しています。
「ことばのうみ」は、宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第81号 2025年7月発行。