宮城県図書館だより「ことばのうみ」第22号 2006年7月発行 テキスト版

おもな記事。

  1. 表紙の写真。
  2. 巻頭エッセイ「友人の図書館」 作家・翻訳家 常盤新平さん。
  3. 特集 宮城県図書館のルーツを訪ねて その1 〜藩校養賢堂とその蔵書〜。《叡智の杜》レポート。
  4. 図書館 around the みやぎ シリーズ第17回 仙台市若林図書館。
  5. わたしのこの1冊 『童コやぁい 船形山麓に伝わる昔がたりとわらべ歌』。
  6. 図書館からのお知らせ。

表紙の写真。

今回の写真は、京都国立博物館内文化財保存修理所で行われている貴重資料修復保存事業の様子をご紹介しています。

巻頭エッセイ「友人の図書館」 作家・翻訳家 常盤新平さん。

定年退職した友人は十日に一度、図書館を訪れて、三冊ばかり借りてくる。伝記類が多いのだが、小説もある。

図書館に行くのが友人の楽しみである。学生のころを懐かしく思い出すという。サラリーマンになってからは、図書館から足が遠のいた。

今は本を借りだす前に、図書室で二時間ほど本を読む。「夏なんか涼しいから、わが家より読書に向いているよ」と彼は笑って言った。

友人はもともと本好きだが、年をとって図書館がいっそう好きになった。「もう新しい本は必要ないようだ」と言う。「わたしには図書館があれば十分だよ」

友人は図書館の帰りが夕方であれば、駅前のビヤホールか居酒屋に立ちよって、かるく飲みながら、図書館から借りてきた本を風呂敷包みからとりだして、ちょっと目を通す。「こんな些細なことがこのごろは楽しいんだ」と彼は笑った

 

著者のご紹介。

ときわ・しんぺい 作家、翻訳家。1931年岩手県水沢市(現 奥州市)生まれ。小学校から高校までを仙台市で過ごす。仙台第二高等学校、早稲田大学卒業。出版社勤務の後、文筆活動に入る。 1986年『遠いアメリカ』(講談社)で第96回直木賞受賞。他に『ニューヨークの古本屋』(白水社 2004年)、『ファーザーズ・イメージ』(毎日新聞社 1992年)、訳書には『カポネ 人と時代』(集英社 1997年)、『夏服を着た女たち』(講談社 1979年)など。

特集 宮城県図書館のルーツを訪ねて その1 〜藩校養賢堂とその蔵書〜。

今年、平成18 年(2006)は、宮城県図書館の前身である宮城書籍館が明治 14 年(1881)7 月25 日に創立されてから125 周年にあたります。公立図書館として全国でも有数の歴史を持つ本館は、和漢の古書を多数所蔵していることでも知られています。今号と次号の特集では、宮城県図書館のルーツともいえる「養賢堂文庫」、「青柳文庫」の2 つの文庫をご紹介します。

 

養賢堂とは。

○学問所の創設。
 18 世紀には藩を担う優秀な人材の育成を目的として全国で藩校が設置されました。仙台藩でも、享保年間に儒員芦東山らが学問所設置を訴える意見書を提出したもののいずれも採用されませんでした。享保20 年(1735)に至って高橋玉斎の意見書が採用され、元文元年(1736)に仙台北三番丁細横丁の西南角(現在の仙台市青葉区木町通1 丁目内)の武沢源之進の屋敷を修復して学問所が設置され、四書五経など儒学の経典の素読・講釈がはじめられました。しかし、わずか十数年後には出席者が減少してしまったため、当時の藩主伊達重村は改革に乗り出し、通学の便を考慮して宝暦10 年(1760)に北一番丁勾当台通(現在の仙台市青葉区本町3 丁目内)の山田平治屋敷に学問所を移しました。安永元年(1772)からは学問所を単に養賢堂と称するようになりました。
○大槻平泉による学制改革。
 文化7 年(1810)、大槻平泉が4 代学頭に任命され学制の改革が行われました。まず平泉は財政基盤の整備に力を注ぎ、新田開発高12000 石を「学田」とし、その年貢収入を中心に学校運営費とするなど、独立採算制による学校運営を行いました。設備面では、中心施設となる大講堂の建築に着手し、文化 14 年(1817)に落成。講堂は建坪567 坪、 25 室を有する広大な建物でした。その後順次学寮・剣槍術所・聖廟など諸施設が整備され、大規模な教育施設となりました。幕府の学問所である昌平黌に学んだ平泉は、朱子学を正統な学問としたほか、学科の増設を行い教育内容の充実に努めました。また蘭学方を設置しオランダ書の翻訳と講義を実施するなど広く世界に目を向けた教育が行われました。
  平泉の没後、長子であった大槻習斎が学頭に就任しました。習斎は父平泉の遺志を継ぎ、川内中坂通に養賢堂の支校である小学校(振徳館)を開校したほか、庶民の子弟のために養賢堂構内に日講所を開設し、教育水準の向上につとめました。
○養賢堂をめぐる人々。
 仙台藩における総合学園として、養賢堂は多数の俊秀を輩出しています。養賢堂に学び明治期に各界で活躍した人物としては、自由民権運動家で五日市憲法草案を作成した千葉卓三郎、初代仙台市長を務めた遠藤庸治、財団法人斎藤報恩会を設立した斎藤善右衛門などが挙げられます。また学頭をはじめとする講師陣にも傑出した人物が多く、特に学頭を輩出した大槻一族は、仙台藩の学問の諸分野で重要な役割を果たしました。木町通小学校付属幼稚園(東北で最初の幼稚園)の創設者である矢野成文など、みやぎの近代教育の基礎を築いた人々もその多くが養賢堂につながっています。
○今に残る養賢堂の遺構。
 仙台市若林区南鍛冶町の泰心院には、明治初期に移築された養賢堂の表門が山門として残っています(仙台市指定文化財)。この門は、大槻平泉による養賢堂の学舎拡張の際、講堂などに先駆けて完成したものです。
  泰心院の境内には曹洞宗第二中学林(現在の東北福祉大学の前身)が置かれたこともあり、生徒から「赤門」と呼ばれていたといいます。大正年間にあった2 度の火災や戦災も免れたのち、平成16 年には修復工事が行われ、唯一残された養賢堂の遺構として現在もその姿をとどめています。
○養賢堂のカリキュラム。
 養賢堂における教育は、文武両道を修めさせることを目的としていましたが、志望により単独の科目の履修も許可していました。5 代学頭大槻習斎のころには、漢学・国学・書学・算法・礼法・兵学・蘭学・洋学・剣術・槍術・柔術・楽といった学科が設けられていました。養賢堂への入学は8 歳からとされ、修業年限は特に定められていませんでしたが、17 歳までに素読試験に合格しなければならず、また落第が3 回に達すると退校させられることとなっていました。試験は春秋に行われる「試業」と、一学科の卒業試験として年末に行われる「改め」がありました。生徒数は未詳ですが、幕末ごろで通学生は1 日1000 名以上、履修者が多かった素読の講義では一朝650 名にも達したといわれています。

養賢堂の蔵書と出版。

○養賢堂文庫とは。
 「文庫」とは、「書籍・文書を収納する倉。転じてまとまった蔵書単位を意味する」言葉です(井上宗雄ほか編『日本古典籍書誌学辞典』岩波書店  1999 年による)。養賢堂では、安永8 年(1779)に書庫を設けて以来、天保年間には約17000 冊にも達する書物を所蔵していました。蔵書には「仙台府学図書」の蔵書印が押されています。明治維新後に蔵書は散逸してしまったものの、その半数は宮城書籍館の創立時に引き継がれ、青柳文庫とともに初期の宮城県図書館の蔵書の基礎となりました。その後疎開していた一部を除き、戦災により大半が焼失しました。現在宮城県図書館では、273 部1603 冊を「養賢堂文庫」として所蔵しており、伊達文庫にも養賢堂旧蔵の洋書が含まれています。養賢堂文庫の特色としては、和書の約7 割が和算書であること、漢籍の善本が含まれていることが挙げられます。
○養賢堂の出版。
 養賢堂では、生徒のための教科書類も出版されていました。これらの出版物を総称して「養賢堂板」といいます。出版されたのは主に四書五経などの儒学の教本で、養賢堂敷地内に設けられた「御蔵板摺所」で印刷されました。「養賢堂板」の書物は、後に城下の書肆も許可を得て刊行・販売し、仙台の出版・印刷に大きな影響を及ぼしました。

『蘭学階梯』 2巻 大槻玄沢著 刊本 天明8 年(1788) 江戸 群玉堂松本善兵衛・松本平助
仙台藩医であり、養賢堂学頭大槻盤渓の父であった大槻玄沢による蘭学入門書。日蘭交渉史から説き起こし、オランダ語の学習について初学者のために総合的に解説したもので、蘭学学習者に大きな影響を与えた書物でした。
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『鈎股百五十好』 写本  『鈎股百好』 写本
養賢堂は正規の講座として数学を教授していた数少ない藩校のひとつでした。この2 冊はいずれも直角三角形を題材とした問題集で、同じ内容のものが複数冊残されていることから貸出用や教科書として利用されたと考えられます。
『観文禽譜』 11巻付録1巻 堀田正敦編 天保2 年(1831)完成 写本(県指定有形文化財)
仙台藩6 代藩主宗村の8 男で幕府の若年寄も務めた堀田正敦の編による記述を中心とした鳥類の詳細な解説書。図譜編である『禽譜』(伊達文庫)とともに江戸期における最大規模の鳥類学書として高く評価されています。
『秒度定刻範』 村田明哲著 安政5年(1858)序 仙台藩養賢堂 刊本
本館所蔵のものは『西洋時計便覧』と表紙に墨書きされています。仙台藩が建造した西洋式軍艦開成丸の航海上必要な西洋式時計の便覧として作成されたものと考えられ、携帯の便のためか約8 センチ四方の小さな本となっています。
『仏露辞典』 2巻 タシーチェフ編 1798年
養賢堂旧蔵の外国書の多くは蘭書(オランダ語の書物)ですが、物理・幾何・造船などに関するロシア語の書物も含まれています。これは養賢堂の「魯西亜学和解方」でロシア学が講じられていたためで、他の藩校には見られない養賢堂の特色でもありました。
『陽村先生文集』 40巻坿陽村先生年譜1巻 権近撰 権蹈編 朝鮮宣祖(1567-1608)初葉 全羅道刊本(県指定有形文化財)
陽村は高麗末期・朝鮮王朝初期の政治家・儒学者であった権近の号。彼の死後子孫によって編集された文集が本書です。なお本館では、本書を含む朝鮮古刊本を46部 262冊所蔵しており、すべて県の有形文化財に指定されています。

宮城県図書館のルーツを訪ねて その2(青柳文庫)は、本誌No.23(06年11月発行予定)で特集します。

《叡智の杜》レポート 石巻市立鮎川小学校で子どもの本移動展示会が開催されました。

本年6月12日から6月23日まで、石巻市立鮎川小学校で「子どもの本移動展示会」が開催されました。この「子どもの本移動展示会」は、県内の子どもたちに本に親しむきっかけをつくってもらい、また本を選ぶ際の参考としてもらうことを目的に、「次世代育成プロジェクト」のメニューのひとつとして県図書館が行っているものです。この移動展示会は当初県内公共図書館・公民館図書室を対象に行ってきましたが、平成16 年度からは小学校も対象としています。平成18 年度は小学校52 校に対して、200 冊を1 セットとしてセット単位で子どもの本を貸出しています。鮎川小学校では2 セットの貸出を受け、全校児童 57 人が子どもの本に親しみました。

また同小学校では低学年用・中高学年用の2 種類の「読書通帳」が児童に配布されています。1 ページ読むごとにポイント(単位は「ホエール」)が加算され、ホエールに応じた級が認定される仕組みになっており、子どもの読書意欲を高める取り組みもなされています。

図書館 around the みやぎ シリーズ第17回 仙台市若林図書館 鈴木康一館長。

 若林図書館は、平成5年9月に仙台市の6番目の図書館として、若林区役所の南側に建設された複合施設である若林区文化センター1 階と2 階のスペースにあります。

 仙台市の図書館は、市民の生涯学習の提供の場として市民の視点に立った新しい図書館づくりをめざして平成12 年3 月策定された「せんだいライブラリーネットワーク整備計画」の

  1. ネットワーク型図書館づくり
  2. 生涯学習を支援する図書館づくり 
  3. 子どもたちの自ら学ぶ力を育む図書館づくり 
  4. すべての市民が利用しやすい図書館づくり
  5. 市民との協働による図書館づくり

の5 つの柱を掲げ図書館運営をおこなっております。

 若林図書館では、地域の図書館として利用しやすい図書館を目指して、 1.利用者にあいさつや声がけをするなど接遇に気をつける。2.本の展示方法については、月別テーマ本コーナー、その時々の事柄について展示するキャッチ本コーナー、中高生向けのYA コーナーや仙台市HP で紹介されている「キッズコーナー」で紹介された本の紹介文と紹介された本の展示コーナーなど展示方法に工夫を凝らしております。 3.平成17 年1 月からは、図書館所蔵の本の修理や書架整理の応援をしてもらう応援団を募集して活躍していただいております。4.図書館内の相談窓口の案内板を見やすいように大きくし、土・日曜日などの利用者が多く来館する日には、担当職員が常に調査相談に応じられる体制をとるなどの方策を実施して、より地域の市民の役に立つ図書館になるべく職員一同心がけております。

 

仙台市若林図書館のご紹介。

開館時間 火曜日〜金曜日 午前10時〜午後7時。土曜日・日曜日・休日 午前10時〜午後5時。
休館日 月曜日(休日にあたる日を除く)、休日の翌日(日曜日又は休日にあたる場合は、その直後の日)、 1月から11月までの第4木曜日(休日にあたる日を除く)、年末年始(12月28日から1月4日)、特別図書整理期間。
交通案内 仙台市営バス若林区役所下車 徒歩3分。
図書館のデータ。
蔵書冊数 174,901冊(平成18年3月31日現在)。
貸出冊数 679,307冊(平成17年度実績)。
住所 〒984-0827 仙台市若林区南小泉1-1-1。
電話 022-282-1175。 FAX 022-282-1176。

わたしのこの1冊『童コやぁい 船形山麓に伝わる昔がたりとわらべ歌』佐藤とし子 著・出版 1983 年

「心と心を紡ぐ語りべ」

 「むが〜す、むがすあるどごに……」で始まる方言たっぷりの佐藤とし子さんの昔語り。ちょっと前ののびやかな風景が広がる世界に、たちまちタイムスリップします。「こんでよつこさけた」と終わりを告げると何となくホッとした優しい気持ちになります。

 幼少の頃聞いた話を、かわいい孫に語って聞かせたところ、娘さんに紙に書いてとせがまれて書いたのが、本として発刊するきっかけになったとのこと。子供たちにそしてお母さん方に読んで戴きたい一冊。

 昭和58 年に『童コやぁい』(わらすっこやぁい)を自費出版したが、完売し、平成8 年に『童こやーい2』を発刊。これも完売してしまい只今、増刊を検討中です。

 萩本欽一さんのテレビ出演の話があったとき、断ってしまったのが心残りと屈託なく笑うとし子さん。だから誘いがかかればどこへでも飛んでいくようにしているのと、キラキラ輝く82 歳。「8 月には、福島県郡山市で開催される「第1 回みちのく伝承民話祭」に語り部として参加するのよ」と、元気な笑顔。

 緑豊かな七つ森の中で、素朴な生活を舞台に語り継がれていく文化がここにあります。

 今回のこのコラムは大和町の宮崎由美子さんにご寄稿いただきました。

図書館からのお知らせ。

平成18年度 宮城県図書館館長講座「みちのくの歴史と文化を訪ねてパート2」 開催のお知らせ。

昨年の開催時に好評をいただいた本館館長の伊達宗弘による館長講座「みちのくの歴史と文化を訪ねて」を、本年も「パート2」として以下のとおり開催いたします。ぜひ受講ください。

 開催期間  平成18年9月2日(土曜日)から平成19年2月10日(土曜日)まで、全6回開催。

 開催時間  午後1時30分から午後3時30分まで。

 開催場所  宮城県図書館2階 ホール養賢堂。

 講  師  宮城県図書館館長 伊達宗弘。

 内  容 第1回  9月 2日(土曜日) 北の大地を拓く。

       第2回 10月 7日(土曜日) 仙台藩に彩りを添えた姫君。

       第3回 11月 4日(土曜日) 霊場松島と宮城のかたち。

       第4回 12月 2日(土曜日) 紀行文からみた東北のかたち。

       第5回  1月 13日(土曜日) 東北の歴史と文学を訪ねて パート1。

       第6回  2月 10日(土曜日) 東北の歴史と文学を訪ねて パート2。

 対  象  一般県民。

 定  員  100名。

 受講料  無 料。

 申込方法  図書館備え付けの「受講申込書」に記入のうえ, 郵送・ファクシミリ送信または当館へ持参してください。「受講申込書」はホームページからもダウンロードできます。電話による申込みも可能です。申込みの際に受講する方の「氏名・電話番号・住所(市区町村まで)」をお知らせください。

 申込期間  各回講座実施日から次回講座実施日の前日までです。ただし,第1 回目については,8 月31 日(木曜日)までとします。なお,全6 回の一括申込も可能です。

 お問い合わせ・お申し込み 企画協力班(1階) 電話 022−377−8444 FAX 022−377−8484。

 

宮城県図書館創立125周年記念特別展2「みやぎの学び〜藩校養賢堂における学び〜」

本誌でも特集した藩校養賢堂の成立とその教育に関わった人達,また,養賢堂が輩出した人達の活躍を図書館所蔵の資料に基づきご紹介します。どなたでも自由にご覧いただけますのでぜひお越しください。

 期間 平成18年8月5日(土曜日)から10月5日(木曜日)まで。

 場所 宮城県図書館2階 展示室。

 時間 図書館開館日の午前9時30分から午後5時まで。

 お問い合わせ 調査相談カウンター(3階) 電話 022−377−8499。

 

この「ことばのうみ」テキスト版は、音声読み上げに配慮して、内容の一部を修正しています。
特に、句読点は音声読み上げのときの区切りになるため、通常は不要な文末等にも付与しています。
「ことばのうみ」は、宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第22号 2006年7月発行。

宮城県図書館

〒981-3205

宮城県仙台市泉区紫山1-1-1

TEL:022-377-8441(代表) 

FAX:022-377-8484

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