宮城県図書館だより「ことばのうみ」第11号 2002年7月発行 テキスト版

おもな記事

  1. 表紙の写真とことば
  2. 巻頭エッセイ 本との出会い 宮城県図書館長 伊達宗弘
  3. 特集 宮城県図書館協議会のしくみ
  4. 図書館 around the みやぎ 仙台市太白図書館
  5. 貴重書の世界 芥川龍之介著「鼠小僧次郎吉」原稿
  6. わたしのこの一冊 今井敬彌著「私の松川事件」
  7. 図書館からのお知らせ 古文書の移管について

表紙の写真。

今回の表紙の写真は宮城県図書館の建物の南側に広がる遊歩道の風景です。遊歩道の途中の「あずまや」、夏の日差しを浴びて輝く「コナラ」の立ち木の姿を写真でご紹介しています。

表紙のことば。

寂蓮法師の和歌より。 「むらさきの雲路にさそふ琴のねに憂き世をはらふ峰の松風」。
図書館の建つ,この紫山の里山に,一歩足を踏み入れると,何ともいわれないすがすがしい気持ちになります。ときには日常の喧騒から離れ,身近な里山を散策し,大地のぬくもり,草木の息吹にふれ,明日に向かってリフレッシュしてはいかがですか。

図書館アートシリーズ その7。

今回は、図書館の1階西側に広がる地形広場を飾る壁面アートをご紹介しています。この壁面アートは、宮城県図書館の第8代館長でもある大槻文彦が編んだ国語辞典「言海」をモチーフにしたもので、アメリカのジョセフ・コスースの作品です。

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巻頭エッセイ 「本との出会い」 宮城県図書館長 伊達宗弘。

 私がはじめて、本といえるものに出会ったのは小学五年の頃、姉から井上靖の『あすなろ物語』を贈られたのがはじまりと記憶している。この本との出会いは、繊細多感な少年時代の私には、新鮮な衝撃であった。何度も何度も読み返しながら、いつの間にか作中の主人公になっていた自分が思い出される。中学に入ったときは、母からお祝いに『大地』、姉からは『風と共に去りぬ』を贈られた。大きく世界が広がっていった記憶がある。夢中で本を読んだ。大学に入ってからは、世界文学全集を読みあさった。ゲーテやヘルマンヘッセの詩を暗唱し、一人で得意になっていたこともある。
 大学を出て就職したとき最初に買ったのは当時発売された百科事典二十六巻である。心が豊かになった。三十年以上たったいまも現役である。この四月から図書館勤務となった。初めての本、懐かしい本に出会う都度、心が躍る。なんて、本は素晴らしいものだろう。多くの皆様に本との出会いを通して、心を豊かに耕していただく一助になればと考える今日このごろである。

著者のご紹介。

だて・むねひろ。宮城県登米町生まれ。昭和43年4月宮城県庁入り。仙台産業振興事務所長を経て、平成14年4月宮城県図書館長に就任。著書『みちのく和歌、遙かなり』『みちのく指導者、凛たり』(踏青社発行)、『武将歌人、伊達政宗』(ぎょうせい発行)など。「みちのくの歴史と文化」をテーマに、執筆、講演活動を行っている。社団法人日本文藝家協会会員。みちのく俳句会客員同人。

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特集 宮城県図書館協議会のしくみ。

平成13年の12月1日〜20日の期間、館内および本館ホームページ等に、あるお知らせが載りました。そのお知らせとは、宮城県図書館協議会委員公募の公告です。これを見て、「図書館協議会ってなんだ?」「委員ってどんなことをするの?」と思った方も多かったのではないでしょうか。今回の特集では、実際の委員の方々にもお話を伺い、宮城県図書館協議会のしくみや役割について考えます。

今回の公募では、たくさんの方からご応募いただきましたが、今回は、小野寺健さんに委員をお願いすることになりました。そんな小野寺さんに直撃インタビュー。 小野寺さんにとって図書館とは。 協議会とは。

小野寺健さんのプロフィール。

小野寺 健/おのでら・けん。
1972年仙台市に生まれる。大阪芸術大学卒業後、仙台に戻り、株式会社藤崎に入社。1997年藤崎を退社後、株式会社仙台市民放送(78.8MHz FMじょんぱ)を立ち上げた。今年の4月から宮城大学大学院事業構想学研究科に入学。仙台市青年文化センター運営アドバイザーやフィルムコミッション準備委員会準備委員、地域NPO学会まちづくりとNPO研究会世話人も務めるなど各方面で活躍。人と会うのが大好きで、文化施設や住民とのかかわり方について関心を持っている。

図書館の利用について。

今年の4月から再び学生に。県図書館もよく利用していますよ。
本が好きで、一日中本屋さんにいてもいいくらい好きです。4月から宮城大学の大学院に入学した関係で県図書館もよく利用しています。もう一度学生になったのは、2年間という短い期間ではありますが、勉強していくことでその内容を会社に活かすことができると思い、入学しました。宮城大学にはいい先生が多いのでとても勉強になっていますよ。

宮城県図書館協議会委員に応募したきっかけ。

この施設を使いこなせる、キーマンの養成が必要!と言えるかなと思って・・・。
こんなにいい設備でこんなにいい人がいてこんなにいい本がいっぱいあって・・・でもそれが宮城県図書館という限られたエリアの財産になっているようなところがあるんですよね。私自身、県図書館の情報が全然見えてないんです。職員の方々は日々の業務を一生懸命されているので、それ以上のものはないと思うのですが、それだけじゃもったいないというのがあって。私ができるとすれば、人と人とをつなぐこと。図書館を利用する人たち・・・キーマンというのかな、そういう人たちを発見し一緒になって勉強しながら力を持って将来的には住民、県民が支えていく図書館になっていければいいかと思います。この施設を使いこなすプロデューサー的な人を養成する必要がある、その必要性をアピールできるかなと思って、宮城県図書館協議会委員に応募しました。

第1回宮城県図書館協議会に出席して。

官民のパートナーシップによる運営が理想だと思う。
いろいろな先生方がいらしていたので、もっとご意見をお聴きしたかったですね。各委員の方々が宮城県図書館をどのように使ったらもっと県民のためになるかという前向きな意見が出るとおもしろい。前にも言いましたが、図書館のキーマンを育てる講座を開くのであれば、協議会委員の先生方に講師をお願いするのもいいのかな。この施設をこのように使いたいという人たちに、「図書館はこうなんです」「こうやったらもっといいですね」というのを見せてあげることによって活発になると思う。やはり官民のパートナーシップで運営することが図書館には大事なことではないでしょうか。こういう役割も協議会委員でやっていければいいですね。

今後の宮城県図書館について考える。

宮城県図書館を宮城県のヒット商品にするには。
宮城県図書館をヒット商品にするには、女性に人気のある施設にすることでしょうね。女性が使いやすい施設でないと人気が出ませんから。住民がいかに使いやすい施設にするか、なおかつ働いている人が魅力的で、自ら誇れる施設でなければ。宮城県図書館に来てよかったなとお客様も職員も思えるようにしていかないと。ここは黙っていても人が来ますけど、だからといってそれに甘えちゃいけないと思います。

今回の宮城県図書館協議会に出席して、県図書館のよさを再認識したという小野寺さん。図書館と住民のかかわり方についての新たな展開に、小野寺さんの活躍を期待します。

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情報社会の図書館振興策は?。 第26次宮城県図書館協議会 齋藤雅英会長。

宮城県図書館協議会は他所のと同じく、図書館法に定められた二つの役割、館長の諮問に応じ、また意見を述べる機関として機能しております。今期は公募による委員も加わりました。幅広く選ばれた委員は、それぞれが県民を代表しているとの認識を持ち、堅い言葉で言えば県民一人一人の「知る権利」や「情報アクセス権」を行使する場、情報発信基地としての図書館活動の種々の側面について、より良い環境の醸成に努めております。
本来、社会に開かれた情報提供機関である図書館の役割が、現今、ともすれば忘れられがちになっています。多くの人々がインターネットで初めて入手できたと思っている、あるいは入手できないと思い込んでいる情報の相当部分は、すでに図書館に存在するものであることを考えると、喧伝されるインターネットの画期的な便利さは、割り引いて受け取らなければなりません。幾十年幾百年幾千年を経て図書館に蓄積されている良質の情報源の存在とその利用法を知らず、誰でも利用できる図書館のさまざまなサービスを受けてみることが無かった人々が少なからず存在することは、図書館の利用者登録率をみれば予想がつきます。なぜ図書館が情報入手の手段として使われていないのか。いろいろなことが考えられますが、図書館が身近に無いので、その便利さを知らないことが、最も大きな要因ではないでしょうか。ITが政策の場で論じられるのであれば、図書館振興こそ政策的視点での論議の対象にならなければならないと思うのは、図書館贔屓に過ぎましょうか。

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図書館協議会とは。

公立図書館には、図書館運営に住民の意見を反映させるために、「図書館協議会」を置くことができます。図書館法第14条によれば、「図書館協議会は図書館の運営に関し館長の諮問に応ずるとともに、図書館の行う図書館奉仕につき、館長に対して意見を述べる機関とする」となっています。つまり図書館協議会は、図書館運営への住民参加を保障するための機関といえます。
また、協議会の設置や委員の定数、任期については、条例で定めることになっています。

宮城県図書館協議会のしくみ。

宮城県図書館協議会は、昭和25年9月19日に設置条例が施行され、翌年昭和26年10月1日に第1次協議会が発足しました。実際に第1回目の協議会が開催されたのは昭和26年11月20日、その後今期の第26次協議会まで続いています。条例に定められた委員の人数は10名、任期は2年間となっています。
委員の構成について改正前の図書館法では、「学校の代表者」「社会教育関係団体代表者」「社会教育委員」「公民館運営審議会委員」「学識経験者」という枠を定めていましたが、法改正(平成11年)と同時にこの区分が緩和され、より身近なものとなりました。このことにより、宮城県では、さらに広く住民の意見を取り入れるために、委員のうちの1名を公募制としました。

第26次宮城県図書館協議会委員は次の方々です。五十音順にご紹介します。

宮城県迫桜高等学校長 太田四郎さん。
仙台市民図書館長 奥山恵美子さん。
東北大学副総長(研究担当)・附属図書館長・教授 小田忠雄さん。
株式会社仙台市民放送会社代表取締役 小野寺健さん。
宮城大学事業構想学部教授 梶 功夫さん。
東北福祉大学教授・教務部長 齋藤雅英さん。
ハートandアート空間BE I代表取締役 関口怜子さん。
河北新報社編集・製作総務 永野為和さん。
中新田町図書館副館長 二瓶瑠璃子さん。
みやぎ・せんだいNPOセンター常務理事・事務局長 紅邑晶子さん。
(任期は平成14年3月1日から平成16年2月28日までです。)

どんなことが協議されているの?。

宮城県図書館協議会は、年に3回程度開催しています。図書館の事業報告や運営方針その他図書館にかかわる様々な議題について、委員の皆さんに協議をお願いしています。ここ数年の協議事項としては次のことがあげられます。
・宮城県における図書館振興策について。
・宮城県図書館の利用サービス向上について 障害者サービスについて。
・インターネット時代の図書館(電算)システムの構築について。
・「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」について。
協議会はどなたでも傍聴することができます。開催についてのお知らせや協議の内容は本館ホームページに掲載していく予定です。

これからも、宮城県図書館協議会委員の皆さんのご意見を大切にしながら、より良い図書館運営を目指します。宮城県図書館の運営にどうぞご理解・ご協力をお願いいたします。

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図書館 around the みやぎ シリーズ第6回 仙台市太白図書館 京極利光館長。

長い間多くの市民の皆さんに待ち望まれていた太白図書館が、地下鉄長町駅真上の再開発ビル「たいはっくる」内に、平成11年9月に産声をあげました。約13万冊の一般書と児童書、200タイトルの雑誌と新聞を揃えた1階の広々としたフロアーでは、訪れた市民の皆さんの「知の虫」を満足させ、地階にある約8千点のCDやビデオを揃えた視聴覚(AV)コーナーは、音と光を通して、市民の新しいコミュニケーションスペースになっています。
発展途上の図書館ゆえ、資料の内容についてはまだ十分とは言えませんが、市民の利用状況を考慮しながら、幅広い蔵書構成を構築していく楽しみもあります。利用形態についても通勤・通学の帰りに、買い物や散歩コースの1つにと、それぞれの生活スタイルに合わせて活用されています。
仙台市では平成12年3月に「せんだいライブラリーネットワーク整備計画」を策定し、図書館がいろいろな形で市民の生涯学習を支援していく考えでいますが、今年度は市内の小中学校からモデル校を選定し、学校図書室への資料の貸し出し、読書指導、おはなしかいやブックトーク等の事業を行い、学校との連携を図ることにしています。
また、市民の生活が多様化していることにより、日常の生活に密着したものから、ビジネスマンの仕事にかかわる調査研究に至るまで幅広い相談が寄せられていますが、太白図書館ではこれらの相談の1つ1つにきちんと対応し、「市民の本棚」としていつまでも多くの皆さんに愛され、信頼されるような図書館をつくっていきたいと考えています。

仙台市太白図書館のご紹介。

  • 開館時間。
    火曜日から金曜日まで 午前10時から午後7時まで。
    土曜日・日曜日、祝日・休日 午前10時から午後5時まで。
  • 休館日。
    毎週月曜日(休日にあたる日を除く)。
    休日の翌日(日曜日または休日にあたる場合は、その直後)。
    毎月第4木曜日(休日にあたる日を除く)。
    年末年始(12月28日〜1月4日)。
    特別整理期間。
  • 交通案内。
    仙台市営地下鉄・長町駅下車 出口南1番。
    市営バス・宮城交通長町駅下車。
    JR・長町駅下車。
  • 図書館のデータ。
    蔵書冊数 12万8415冊(平成14年3月31日現在)。
    貸し出し冊数 55万9990冊(平成13年度実績)。
  • 住所 〒982−0011 仙台市太白区長町5丁目3−2
  • 電話 022−304−2742 FAX 022−304−2526
  • ホームページ http://lib-www.smt.city.sendai.jp/

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時空をこえて 貴重書の世界 芥川龍之介著「鼠小僧次郎吉」原稿。

作家・芥川龍之介(あくたがわ・りゅうのすけ/1892年〜1927年)は、大正8年(1919年)、小説『鼠小僧次郎吉』を執筆している。作品は、翌年の『中央公論』1月号(中央公論社 1920年)に発表された。
本号で紹介している写真は、主人公が甲州街道で道連れとなった越後屋重吉と、雪の中を日暮れた八王子の宿場に着いた場面。雪の宿場町の情景が繊細に描き出されている。
芥川龍之介は、大正9年(1920年)に青根温泉(宮城県川崎町)に逗留、昭和2年(1927年)には仙台市で講演会を開くなど、宮城県を何度か訪ねているようだ。

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わたしのこの一冊 「私の松川事件」 今井敬彌著 日本評論社 1999年。

戦後の未熟な権力と闘う。

戦後政治の始まりは、法廷からと言って決して過言ではない。
昭和二十四年、当時の国鉄東北本線での大惨事となった列車転覆事故は、敗戦の日本に米軍総司令部が統治権を握っていた時代であった。世に言うあの松川事件である。
この「私の松川事件」の著者で弁護士の今井敬彌氏が、松川救援運動の弁護士として参加したのは、仙台高裁における差し戻し裁判からとなる。
当時の裁判そのものは所謂外圧から来る、政治的要因を忍び込ませるのに何の不思議さも無い時勢であったと言えよう。
今井氏はその時の体験で、今までに分かり得なかった事を知り、また新たな教訓を得た。と言っておられます。しかしそれは、人権軽視に対する憤りから来る徹底抗戦と、そのための弛まない努力と情熱の必要性。そのことの教訓であったように思う。
氏の、文のくだりに<嵐の中に地を這い進む人民の姿こそ、私達にとっては何よりの強い励ましとなるのだ>とあります。まさしくこれには、戦後時代の未熟な国家権力との暗闇が透けて見えます。そして遂に差し戻し判決は昭和三十八年(1963年)二十名全員の無罪判決となったのである。
私はこの事が、後三十九年の経過の中で、その真実は尚も脈打ち生き続け、今も無謀な権力に立ち向かおうとする生命の滋養剤になったことに、心から敬意を表するものです。

今回のこのコラムは仙台市在住の小林哲さんにご寄稿いただきました。

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図書館からのお知らせ。

古文書の移管について。
本館が所蔵してきた古文書のうち、「伊達家文書」「涌谷伊達家文書」「多ヶ谷文書」等は、平成13年2月末、東北歴史博物館に移管されました。移管された古文書の名前等は本館郷土資料担当に、ご利用等詳細については東北歴史博物館にお問い合わせください。東北歴史博物館の住所は、宮城県多賀城市高崎1−22−1、電話番号は、022−368−0101です。

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この「ことばのうみ」テキスト版は、音声読み上げに配慮して、内容の一部を修正しています。
特に、句読点は音声読み上げのときの区切りになるため、通常は不要な文末等にも付与しています。

「ことばのうみ」は、宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第11号 2002年7月発行

宮城県図書館

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宮城県仙台市泉区紫山1-1-1

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